人です」
 かすれた声で、怪人はたずねた。
 帆村は正直に名乗った。
 怪人は、帆村たちが警察の命令を受けて彼を逮捕に来ているのでないことをいくども確めた後、始めて同行を承諾した。
「しかし相手に会っても、あなたの恨みを述べるだけになさい。暴力をふるうことはよくありません。それはあなたがその筋の同情を失うことにもなりましょうから」
 老探偵は、小さい子供にいってきかせるように言った。
 三人は歩き出した。
 だが蜂葉は気が気でなかった。
「おじさま、いいんですか。もし万一のことがあったなら……」
 彼は低声で伯父に注意した。この怪人を谷間シズカ夫人に会わせたとき、怪人はかっとなって夫人の頸を締めるようなことはないであろうか。もしそんなときには、帆村は事件依頼人に対してどういって申訳をするのだろう。
 だが、帆村は、心配しなくていいという意味の合図を甥に示しただけで、歩調を緩めようともしなかった。大した自信だ。
 三人が、アパートの入口へ続いた通路へ二足三足、足を踏み入れたとき、突如として奥から銃声が響いた。十数発の乱れ撃ちの銃声だった。
「しまったッ」
 老探偵はその場に強直して、舌打
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