ことが出来ないなら、通信部の誰かに会って訊いてみたい。紹介してくれたまえ」
「もう解散してしまって、誰も居ないよ。通信部は完全に解散してしまったのだ」
「そうか。それは残念だ。しかし名簿は残っているだろうから、それを手帖へ控えて行こう」
深夜の坂道
帆村は甥と共に、そこを引揚げて彼の事務所へ戻った。
若い甥は、帆村をそっちのけに昂奮《こうふん》していた。帆村はそれをしきりになだめながら順々に仕事をつづけていった。
「こうなれば、谷間シズカ夫人の事件なんか後まわしにするんですね」
蜂葉は、そうするように伯父へ薦《すす》めたい一心から、そんな事をくりかえし口走った。
帆村は何とも応えなかった。
いつの間か、夜は更けた。
「おい、出掛けるよ。ついて来るかい」
「行きますとも。ですが、一体どこへ?」
帆村の目あては、例のだらだら坂だった。厳冬であるが、ここは地下街のことだから、気温は二十度に保たれている。
帆村は確信に燃えているらしく、その坂をさっさと昇っていった。
坂を昇り切ろうとしたとき、帆村は甥に合図をした。
二人は突然足を停めると、左へ向きをかえた。蜂葉
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