「そのとおりだ。実際彼の活躍ぶりは……」
 と、桝形は俄《にわ》かに雄弁になり、あの当時のことを永々と喋り出した。帆村はふんふんと、しきりに感心している。しかし彼の手は、別冊の頁をしきりに開いていた。それは交川博士の手記にかかる「通信部報告書」だった。同じ八月三日の記載に、次のような文句があった。
「……密航者一名ヲ法規ニ照シテ処理ス。二十三時五分開始、同五十五分終了」
 それからその欄外に鉛筆書で「23XSY」“畜生、イカサマだ云々”、「要警戒勝者」と、三つの文句が横書になっている。帆村の顔は硬《こわ》ばった。
「密航者は一名かと思ったら、そうじゃなく、二名居たんだね。」
 帆村は叫んだ。
「君の解釈は自由だ」
 桝形は太々《ふてぶて》しく言い放った。
「ちゃんとここに書いてある。この『通信部報告書』に。これは交川博士の筆蹟《ひっせき》だ」
 帆村は「密航者一名ヲ法規ニ照ラシテ処理ス云々」のところを指した。そのとき別の書類が、欄外の鉛筆書きの文字を隠蔽《いんぺい》していた。それは偶然か故意か、明らかではない。
「これを読んでから、もう一度『航空日誌』に戻ると、密航者が二名あったこ
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