しまった」
「どうして船乗りだと見当をつけたんですか」
「それはお前、あの帽子の被り方さ。暴風《サウエスター》帽はあのとおり被ったもんだよ」
「ははあ。それで彼が船乗りだったら、この事件はどういうことになるんです」
「それはこれから解《と》くのさ。彼が船乗りだというこの方程式を、われわれは得たんだ」
「関連性がないようですねえ」
「いや、有ると思うね。彼が船乗りだということが分ると、そのことがこの事件のどこかに結びつくように感じないか」
「さあ、……」
甥は、脳髄を絞ってみたが、解答は出なかったので、首を左右に振った。
「あんまりむずかしく考えるから、反《かえ》って気がつかないんだねえ」
老探偵は笑って、オーバーのポケットへ両手を突込んだ。
「さて、ちょっと谷間夫人を訪問して行くことにしよう」
「正式に面会するんですか」
「いや略式だよ。君に一役勤めて貰おう。こういう筋書なんだ」
老探偵はその甥に何かを低声《こごえ》で囁いた。甥はいたずら小僧みたいな目をして、悦《よろこ》んでそれを聞いていた。
たしかに碇曳治と谷間シズカの名札のかかったアパートがあった。甥は呼鈴を押そうとした。
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