ために見えない。
老探偵は、いつの間にか相手を小型カメラの中におさめていた。
「おいムサシ君。これからあの人物に、面会を求めてみる」
「逃げ出すようなら取押えましょうか」
「いや、相手の好きなままにして置くさ。機会はまだいくらでもある」
その言葉が終るが早いか、老探偵は通路の角からとび出した。甥はそれを追いかけるようにして進む。
が、老探偵の歩調は、だんだん緩《ゆる》くなっていった。彼の口には、いつの間にかマドロス・パイプが咥《くわ》えられていた。煙草をすっかりやめた彼にも、仕事の必要からして代用煙草のつまったパイプを嘗《な》めることもある。彼はゆっくりした歩調で、怪漢の前に近づいた。そして遂に足を停めた。
「失礼ですが、谷間シズカさんという方の住居が、このへんにございませんでしょうか」
突然話しかけられて怪漢はびっくりしたらしく、奇怪な顔が更にひん曲ってふしぎな面になったが、男はすぐ手袋をはめた両手で、自分の目から下の顔を蔽《おお》った。彼ははげしく左右に首を振った。
「左様で。ご存じありませんか。それは失礼を……。へんなことを伺いますが、あなたさまは前に船に乗っていらっしゃ
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