の毒な博士の最期のことを連想させた。これは私の勘だがね。君の軽蔑するあれさ。それはともかくも、私はこれに気がついたので、これは大変な事件だと思いその筋へ報告して置いたんだが、あの日私たちが一足遅れになってしまった。
木田氏の身体は23XSY無電局で受信せられ、再び身体に組立てられたが、不幸にも送信機と受信機の調子が完全に合わなかったことと、運悪く当夜強い空電《くうでん》があったために、再生の木田氏は、あんなに断層のある醜い顔、いびつな身体になってしまったんだ。しかし木田氏が生命を失わなかったことは祝福すべきだ。その木田氏は身体が恢復《かいふく》すると碇曳治に恨みをかえさないではいられなかった。これは誰にでも了解できることだろう。彼は醜い顔ゆえに、極力《きょくりょく》人目をさけながらも、碇の行方を探し、そして遂に探しあてて彼の身辺を狙うようになったんだ。それをシズカ夫人が誤解して、夫人自身が怪人につけ狙われていると感じたんだ。――そのあとは、君の知っているとおりだ。うん、それからもう一つ、シズカ夫人のことだが、あの夫人は昔、碇と木田の両方から想われていたんだそうな、そして始めは木田の方が好きだった。ところが木田は行方不明になる。それから碇の方は探険から帰って来て英雄だとはやされる。その碇がシズカ夫人につきまとう。そんなだんどりで二人は同棲することになってしまったという。このことについて、私はおせっかいながら一つの結末を考慮中だ」
老探偵が何を考慮中だったのか、それは後になって、谷間シズカが端麗な若者と結婚したのによって知れる。
その若者は、旧知の人々からは「永らく行方不明を伝えられた木田健一が、ひょっくり戻って来て、昔の恋中の谷間シズカと結婚した」といわれている。
これについて老探偵のやったおせっかいというのは、例の無電局の江川技師に頼み込み、木田の身体をもう一度分解して空間へ電波として送り出し、それを別の局で受信してもう一度木田氏の身体を組立て直したのであった。そのとき江川技師の並々ならぬ努力によって、木田の顔面と身体の歪みを直すと共に、混入していた空電をすっかり除去した。その結果、木田は若々しい美青年に戻ることが出来たそうである。
昭和も五十何年だから、こんなことが出来る。三十年前には、夢にも思いつかなかったことだ。そうではないか。
底本:「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」三一書房
1992(平成4)年2月29日第1版第1刷発行
初出:「探偵よみもの」
1947(昭和22)年10月号
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月5日作成
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