イロットを、わが照国丸に配置してくれたので、もう心配はない。さっきは、船橋《せんきょう》に、このパイロットが松倉《まつくら》船長と肩をならべて、なにやら海上を指しているのを見た。軍人あがりとかいう噂だが、なかなか逞《たくま》しい面構《つらがま》えのパイロットで見るからに頼母《たのも》しく感じた。
 この調子では、夕方までには、ロンドンに入港することが出来る筈である。
 前方にハリッチ市が見えてきた。あれこそ、余が最初、派遣《はけん》を願い出でたるハリッチ海軍根拠地のあるところであった。わが照国丸は、ドーヴァを越えてすぐ左折し、テームズ河へ入るものと思いの外《ほか》、そんな様子も見せないで、ずんずん真直《まっすぐ》に進行している。やがて、これではハリッチの海岸にのりあげそうである。なんだか、余の気が、船をハリッチの方へ持っていくように感ぜられて愉快である。
 さっきは、同室内に乗合わせているノールウェー船(シンガポール沖で撃沈《げきちん》された船)の乗組員にインタビューし、その神秘《しんぴ》な遭難《そうなん》談を原稿にとった。いずれ明日までに整理のうえ、送稿する。
 今、甲板《かんぱん》
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