気をあつかう内臓なのだ。
ところが、この電臓を作ることはできたが、しかし働いてくれないのだ。これを働かすには、さっきのべたとおり三千万ボルトの高圧を、電臓の中の二点間にとおすことが必要なのである。そしてそれが、この人造生物にたいする最後の仕上げなのであった。
「もし、それに成功して、電臓が動きだしたら、えらいことになるぞ」
と、谷博士は、大きな希望によろこびの色を浮かべるとともに、一面には、測り知られない不安におびやかされて、ときどき眉《まゆ》の間にしわをよせるのだった。
それは、もし、この電臓が働きだしたら、この人造生物は、一つの霊魂をしっかりと持つばかりではなく、その智能の力は人間よりもずっとすぐれた程度になるからだ。つまり、あの人造生物の電臓が働きだしたら、人間よりもえらい生物が、ここにできあがることになるのだ。
超人《ちょうじん》X号![#ゴシック]
これこそ、谷博士が、試作生物にあたえた名まえであった。
「超人X号」は、今ちょうど気をうしなって人事不省《じんじふせい》になっているようなものであった。もしこの超人に活《かつ》をいれて、彼をさますことができたとしたら、「超人X号」は、ここに始めてこの世に誕生するわけになる。
もしこの超人を、三千万ボルトの電気によって覚醒《かくせい》させることができなかったら、それで谷博士の試作人造生物X号は、ついに失敗の作となるわけだ。
はたして生まれるか「超人X号」!
それとも、そのようなおそるべき生物は、ついに闇から闇へ葬《ほうむ》られるか?
その、どっちにきまるか。
頭上にごうごうどすんどすんと天地をゆすぶる雷鳴を聞きながら、腕組みをした悪鬼《あっき》のごとき形相《ぎょうそう》の谷博士が、まばたきもせず、ガラス箱の中の人造生物をみつめている光景のすさまじさ。さて、これからどうなるか。
研究塔下の怪奇
これまでに、谷博士は、このような実験に、たびたび失敗している。
七、八、九の三カ月は、とくに雷の多く来る季節である。しかしこの雷は、いつもこの研究所の塔の上を通って落雷してくれるとはかぎらない。また、これがおあつらえ向きに、研究所の上を通ってくれるときでも、それが博士の熱望している三千万ボルトを越す超高圧の雷でない場合ばかりであった。それで、これまでの実験はことごとく失敗に終ったのだ。
「この種の実験は、気ながに待たなくてはならない。急ぐな。あせるな」
博士は、自分自身に、そういって聞かせるのであった。それにしても、待つことのあまりに長すぎるため、博士はだんだんあせってくるのだった。
「きょうこそは。きょうこそは。三千万ボルトを越える雷よ。わが塔上に落ちよ」
博士のとなえることばが、呪文《じゅもん》のようにひびく。
もし待望の三千万ボルトを越える超高圧の空中電気がこの塔に落ちたら、この研究所の大広間の天井につってある二つの大きな球形《きゅうけい》の放電間隙《ほうでんかんげき》に、ぴちりと火花がとぶはずであった。
雷鳴は、いよいよはげしくなる。
塔は、大地震にあったように揺《ゆ》れる。
そのときだった。
ぴちん。ぴちぴちん。
空気を破るするどい音。ああ、ついに火花間隙に電光がとんだ。
いよいよ超高圧の雷雲が、塔の上へおしよせたのだ。
「今だ」
博士は、足もとに出ているペタル式の開閉器を力いっぱい踏みつけた。
と、その瞬間に、ガラス箱の中が、紫の色目もあざやかな光芒《こうぼう》でみたされた。皿の上の人造生物を、左右両脇より包んでいるように見える曲面盤《きょくめんばん》の無数の針の先からは、ちかちかと目に痛いほどの輝いた細い光りが出て、それが上下左右にふるえながら、皿の上の人造生物をつきさすように見えた。
すると皿の上の例のぶよぶよした人造生物は、ぷうッとふくらみはじめた。みるみる球《きゅう》のようにふくれあがり、そしてそれが両がわの曲面盤のとがった針にふれたかと見えたとき、とつぜんぴかりと一大閃光《いちだいせんこう》が出て、この大広間を太陽のそばに追いやったほどの明かるさ、まぶしさに照らしつけた。
「あッ」
博士は、思わず両手で目を蔽《おお》ったが、それはもうまにあわなかった。博士は一瞬間に目が見えなくなってしまった。そして異様《いよう》な痛みが博士の全長を包んだ。博士は、苦痛のうめき声とともに、その場にどんと倒れた。
そのあとに、ものすごい破壊音《はかいおん》がつづいた。破壊音のするたびに、何物かの破片《はへん》が、博士のところへとんできた。その合間に、砂のようなものが、滝のように降ってきた。博士ははげしい苦痛に、やっとたえながら、それらのことをおぼえていた。
だが、それはながくつづかなかった。
まもなく、第二のか
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