、あの時サハラ沙漠の上で、ほんとうに死んでしまったのだろうか。ひょっとしたら、あのまえにロケットから飛びおりて、どこかにかくれ、まだ生きのこって再挙《さいきょ》の日を待っているのではないだろうか」
戸山君は、一度博士に向かって、その疑《うたが》いを口に出して話したことがあった。その時谷博士は、おだやかな微笑を浮かべていたのである。
「戸山君。あるいはそうかも知れない。ぼくにしても、そうでないとは、いいきれないのだ。だがもしX号が、かりにどこかに生きておったにしても、感情もない、愛も道徳もない生物は、いくら智力がすぐれていても、世界は支配できないよ。そうした生物は、けっきょく自分の智力の前に倒れるのだ。X号のことなどはもう気にかけずに、人類の智力を、一歩でも向上させるために、死ぬまで働きつづけようじゃないか」
これが、この悟《さと》りをひらいた大科学者、谷博士の最後に達した、すみわたった心であった。
底本:「海野十三全集 第12巻 超人間X号」三一書房
1990(平成2)年8月15日第1版第1刷発行
初出:「冒険クラブ」
1948(昭和23)年8月〜1949(昭和24)年5月号
同誌の休刊により中断。
「超人間X号」光文社
1949(昭和24)年12月刊行の上記単行本で完結。
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2001年12月29日公開
2002年1月28日修正
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