の間の距離は、見るみるうちに接近して来た。
 ――敵との距離、あと三千メートル、――
 またもや探知機からの報告。
「原子ロケット砲、射撃準備」
 博士はマイクロホンで命令をくだした。一機のロケット砲室では、山形警部が一心不乱《いっしんふらん》に、目の前のスクリーンをのぞいている。その上には、X号をのせたロケットの像がうつりはじめた。警部は必死に照準《しょうじゅん》をあわせた。スクリーンの上に描《えが》かれてある、縦横十文字《たてよこじゅうもんじ》の細い線の交点に、敵のロケットが乗った時、発射装置のボタンを押せばいいのである。いまや、その瞬間がおとずれた。
「発射!」
 宇宙航空船の巨体はまたもや、大きくがくーんとゆれた。白い煙をうしろに残した六本の原子ロケット砲弾は、ほとんど静止している敵のロケットを追って、青空を目にもとまらぬ速さで走りつづけて行く。
「全速上昇!」
 宇宙航空船はものすごい勢いで上昇しはじめた。
 四千……五千……六千……七千……
 この時、眼下では、ものすごい大閃光《だいせんこう》とともに、原子弾の爆発が起こったのだ。熱帯の太陽にやきつくされたサハラ沙漠の上空には、五色の原子雲が渦《うず》まき、その雲はぐんぐんとのびあがって、この事宙航空船のあたりまで追って来たのである。
「さあ、これでX号も完全に死滅《しめつ》させることができたよ。わしの手で作ったものにはちがいないが、なんと恐ろしいやつだろう。感情も道徳もともなわない智力というものは、発達すればするほど、人類に害を及ぼすものなのだ」
 博士は感慨深《かんがいぶか》そうに口ずさんだのである。
 このようにして、X号はサハラ沙漠で最期をとげ、その最期の地の上空にたなびく原子雲のまわりを、二三度|旋回《せんかい》した宇宙航空船は、ふたたび機首をめぐらして、日本の国、三角岳《さんかくだけ》へ向かったのだった。


   大団円《だいだんえん》


 三角岳の研究所は、あとかたもないまでに破壊されていた。
 さいわいにこのあたりが、メトロポリスになってから、気味わるがった人々は、いつのまにか、ここを捨てて、ほかに移住《いじゅう》してしまっていたので、人間の負傷は、ぜんぜんといってよいくらいなかったのである。
 武装警官隊も、爆心《ばくしん》からは大分離れたところにおったため、二三人が軽いやけどを負ったぐらいですんだ。
 この建物が破壊されたことは、かえってよかったともいえるのである。なぜかというと、このために、物をいう木や、ひとりで動く道具や、あのぶきみな機械人間や、そういったものは皆姿を消してしまって、三角岳はまたもとの自然のままの姿にかえったのだから。そしてまた、X号の作りだした、防ぎようのない伝染病《でんせんびょう》の細菌《さいきん》や、どんな防毒装置でも透過《とうか》する毒ガスや、そのほかいろいろの最新兵器も、みな死滅し分解され破壊されて、人類を滅亡《めつぼう》させる役に立つこともなかったのだ。
 三角岳へこの宇宙航空船がかえりついた時、博士は社会からはげしい非難をうけ、警察のとりしらべも受けたのだが、X号の恐ろしい計画について、山形警部がいちいち証言をおこなったので、かえって博士たちの努力が認められ、なんの処罰《しょばつ》も受けずにすんだ。
 頭のきずが回復した時、博士の第一にした仕事は、山形警部をもとのからだにかえしてやったことだったのは、いうまでもない。
 博士のかたくなな性格は、それからまったく生まれかわったようになってしまった。本心からおだやかな、人好きのする円満な性格となり、博士は自分の研究の結果を、すべて広く社会に公開し、社会と人類の文化の向上をはかったのである。
 それはX号のように、下心《したごころ》あるうわべだけの行為ではなく、本心から出た愛情のこもった行為であった。
 宇宙航空船につまれてあった、莫大《ばくだい》な量のウラニウムは、すべて原子力工場のために使用され、原子爆弾は、あのサハラ沙漠の爆発を最後として、永久に使用されずに処分されてしまったのである。
 ただ一つ、博士がどうしても公開しなかった研究の秘密――それは人造生物をつくる方法だけだった。
「生命というものは、神だけが生みだすべきものである。人間の手でそれを作りだそうとすることは、かえって人類の破滅をまねくにすぎない。自分がこのような恐ろしい目にあったのも、人間の力の限度を知らないから生じた誤《あやま》りだった」
 博士は口ぐせのように、こうくりかえしていたのである。
 戸山君はじめ五人の少年は、博士の下で研究をつづけ、日本でも有数の大科学者となった。しかし、戸山君たちの心の中には、いつまでもいつまでも、このような恐ろしい疑問が、たえず残っていたのである。
「あのX号は
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