どうしてあけたらいいのです」
「となりの部屋に、鍵がおいてあるはずだから、それをさがして来てくれたまえ」
 戸山少年は、あわてて部屋をとびだして、となりの部屋をさがしたが、あいにくそこには鍵はなかった。ただそこにも大きな檻があって、中には谷博士と同じ種類のサルがぐうぐうと大きいいびきをかいて、眠っていたのである。
「先生、鍵はどうしても見つかりませんでしたよ」
 戸山君は、さっきの部屋へかえって、サル――いや本物の谷博士に報告した。
「そんなはずはないんだが――さてはX号が持っていったかな」
 サルはばりばりと歯ぎしりをした。
「ところで先生、先生はどうしてこんな所にとじこめられたのです」
「それがね、ぼくもゆだんしていたんだ。X号がぼくを病院からさらって逃げたことは、君たちもよく知っているだろう。ところが君たちが、ぼくに化けたX号をにせ者だと見やぶって、この研究所を襲撃したので、X号は火辻軍平のからだにはいっていては危険だと思ったんだね。それでぼくを殺して、ぼくのからだの中へはいりこみ、君たちの目をごまかしたんだ。そしてぼくの脳髄《のうずい》だけを、このサルのからだに移して、あとでまた、役に立てようとしたんだよ」
「すると、となりの部屋にいたサルは……」
「あのサルも、ぼくのからだと同じ、人工《じんこう》のサルだよ。ただむこうは、サルの脳髄しか持っていないし、こちらは人間の脳髄を持っているだけのちがいだよ」
「それでX号は、これからどんなことをやりだそうというのです」
「あいつは恐ろしいやつなんだ。智恵の力はふつうの人間とは、くらべものにならないくらいすぐれているが、感情だの、道徳《どうとく》だのというものは少しも持ってはいないんだ。あまり自分の力がすぐれているんで、あいつはこのごろでは、少し増長《ぞうちょう》して来たらしく、地球上の人類を全部殺してしまって、自分らがそのかわりにとってかわろうとしているんだ」
「そんな恐ろしいことが、ほんとうにできるんですか」
 少年たちは、恐ろしさにがたがたとふるえていた。
「できる。X号にならできるとも。君たちは、この地下室をなんだと思うかね」
「さあ、ぼくたちには、よく分かりません」
「X号の秘密工場だよ。あいつは、いつのまにか、機械人間の力をかりて、この三角岳《さんかくだけ》の地下に、十六階の地下工場をつくりあげた。ここはその一番下の階なんだが、この上の十五階の一つ一つでは、ものすごい物ばっかりがいま作られている。
 ぜったいに防ぎようのない、伝染病《でんせんびょう》のばいきんだとか、なんの臭いもしない猛烈な毒ガスだとか、いまの人間の力ではまだ完成されていない、すごい威力を持った原子爆弾だとか。さいわい、この工場は、一週間ほどまえにできあがったばかりで、まだそんなものの大量生産にはうつってはいないが、もし一月もほうっておけば、その時は地球上の全人類が滅亡する時だよ」
 なんと恐ろしいものがたりだったろう。少年たちのからだは、木の葉のように震《ふる》えていた。どうしても、これはこのままにしておくことはできない。どんな方法をとっても、このX号の野心は粉砕《ふんさい》しなければならないが、さてその方法は――
 五人は、またしてもはっ、とかたずをのんだ。うしろの扉が音もなくひらいて、一人の機械人間がはいって来たのだった。


   ふしぎな機械人間《ロボット》


 五人の少年は、その機械人間の姿を見たとき、思わずぞっとしたのだった。精巧《せいこう》な機械の力で動く、この機械人間の恐ろしい怪力《かいりき》は、少年たちも毎日のように、自分らの目で見ていたのである。そして機械人間はすべて、にせの谷博士の命令には、ぜったい服従《ふくじゅう》して動くのだった。自分たちが、こうして地下室へ忍びこんで、サルになった本物の谷博士と話をしているところなどを見られたら、とうてい命はあるはずがない!
 しかし、この機械人間は、五人めがけてとびかかるような気配《けはい》はなかった。
「戸山君、君たちはここでいったい何をしているんだね」
 その声には、機械人間に特有の、きいきいとした金属的な音ではなく、ふつうの人間の声のような、やわらかさがあった。
「べつに……何も……」
「早く、自分の部屋にかえりたまえ。こんなところでうろうろしているところを、博士に見られたらたいへんだ。みんな殺されてしまうよ」
 そのことばにも、機械人間《ロボット》とは思えないような、同情の調子がみなぎっている。
「君、君はいったい何者だね」
 檻《おり》の鉄棒につかまって、ものすごい目で機械人間の方をみつめていた、サルの谷博士が、がてんがいかないというふうにたずねた。
「おや、このサルは口をきくんだね。そういうおまえこそいったい何者だ」
 機
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