に立って片手を高くあげ、大声で叫んだ。
「ひらけ、ゴマ!」
 これはどうしたことだろう、何もなかった白壁《しらかべ》には、ポカリと畳一畳ぐらいの大きな穴があいたではないか。博士のからだは、音もなくその穴の中へと、吸いこまれて行った。
「とじよ。ゴマ!」
 中から聞こえる声とともに、壁の穴は、また音もなく、もとのようにとじてしまったのであった。


   恐ろしい疑い


 一方、五人の少年は、望遠装置にうつった、博士の恐ろしい姿に、すっかりおどろいてしまったのである。
「戸山君、いったい博士はどうしたのだろうね。どんな悪者のために、あんな目にあわされているのか知れないが、みんなで助けに行こうじゃないか」
「うん……」
 そういいながらも、戸山君は、望遠装置からはなれようとはしなかった。
「戸山君、どうしたんだい。早く行こうよ」
「君たち、これはたいへんな話だよ。ちょっとあわてずに待ちたまえ。いったいあれはほんとうの谷博士かしら」
「そんなこと、あたりまえじゃないか。谷博士でなかったら、だれだというんだい」
「もしかしたら、……X号が博士のからだの中にしのびこんで……」
 このおそろしい想像に、少年たちは冷水をあびせかけられたように、震《ふる》えあがってしまったのだった。
「どうして……どうして、そんなことがわかる」
「だって、君、ふつうの人間なら、百万ボルトの電流を頭にかけられたら、一分一秒でも、生きていられるわけがないじゃないか。それだのに、博士はにやにや笑っている。ほんとうの博士なら、どんなに不死身《ふじみ》だって……」
 だれも答えるものはなかった。
「いつか博士はぼくたちに、病院で、X号のことを話してくれたね。博士が作った人工生物、電臓《でんぞう》は、三千ボルトという高圧の電気をあびて、はじめて生命力を持ったんだ。そして初めは、機械人間のからだの中にはいっていた。それから火辻軍平《ひつじぐんぺい》の死体の中へはいりこんだ……」
 四人はがたがた震えていた。
「そんなことができるくらいなら、X号が谷博士を殺して、その屍体《したい》の中へはいりこみ、われわれの目をごまかすことも、ちっともむずかしいことはないだろう。そうだよ。きっとそれにちがいないとも。それだから、ああして百万ボルトの電流をあびても、平気で生きていられるんだよ」
「そうかも知れないね。だけど、それではぼくたちは、どうすればいいんだい」
「X号というのは、どんなことを考えているのか。ぼくたちにはまだよく分らない。だが、こうしてこのあたりが、まるでお化《ば》けばかり住んでいるような、ふしぎな国になっているのは、X号が何かをたくらんでいることをものがたっている。これはこのままにはしておけないよ」
「それではどうすればいいんだね」
「なんとかして、X号の秘密を探りだして、みなに報告するんだ」
「どうして探るんだい」
「うーむ。それはね……」
 さすがの戸山少年も、その方法には、ちょっと困った様子であった。何しろこの建物の中では、机が動きだすかも知れず、壁に耳があるかも知れないので、何一つゆだんはできないのであった。
 その時である。廊下にことことという足音が聞こえて来た。人間の足音ではない。機械人間が、廊下を一人で歩いているのだ。
「やはり機械人間だよ。実験室からこちらへ歩いて来た」
 扉を細目にあけて、のぞき見をしていた、少年がふりかえってささやいた。
「するとさっき望遠装置にうつった機械人間だな……」
 戸山少年は、何かしきりに考えこんでいた。
「おや、何も見えなくなったよ。実験室は真暗《まっくら》になって、もう博士の姿は見えないよ」
 望遠装置をのぞきこんでいた一人の少年が、おどろいたように叫んだ。
「それじゃあ、実験はすんだんだね」
 戸山少年は、唇を血の出るようにかみしめて、しきりに首をひねっている。
「ちょっと、便所へ行くふりをして、様子を見てくるよ」
 戸山少年は、みなのとめるのをふりきって、廊下へとびだしたが、まもなく帰って来てふしぎそうにいいだした。
「どうしたのか、実験室の戸は開いているし、中にはだれの姿も見えない。しかし、たしかに博士はあの部屋から出たはずはないから、どこか秘密の抜け穴がつくってあるにちがいないよ。みんなでその秘密をさぐろうじゃないか」
「うん、ではみんなで行ってみようよ」
 この中で、どんな恐ろしい目にあうとも知らず、五人の少年は、足音をしのばせて、まっくらな実験室の中へしのびこんだのだった。


   ひらけゴマ


 実験室の中には、人間一人いなかった。壁のスイッチをひねっても、部屋の中には、大きな放電装置と、いくつかの機械が並んでいるばかり、博士はこの部屋から出て来たはずはないのに、今その姿はどこにも見えないのだ。
「ま
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