きだした。彼の頭部にある手術のあとのみにくい縫目《ぬいめ》が、警部をふるえあがらせた。
「ややッ、君は死刑囚の火辻軍平だな」
「正確にいうと、それはちがうんだがね」
 と、X号はつい興《きょう》に乗ってからかい半分、そういった。
「火辻のからだを借りている者さ。よくおぼえておくがいい。わしはX号だよ。谷博士がわしを作ったのだ。超人間のX号さ。うわははは」
「ええッ、X号は君か」
「おどろいたか。よく顔を見て、おぼえておくがいい」
「うぬ。そのうちにきっと君を捕縛《ほばく》してみせるぞ」
「それは成功しないから、よしたがいい。とにかく、それでは早く仕事にかかろう。君とはもう口をきかないことにする」
「早く、私のからだを自由にせよ。君には、私を捕《と》らえる権限《けんげん》がないじゃないか」
「そのうちに、君を自由にしてやるよ。当分《とうぶん》ここにいて、わしの仕事に協力してもらうのだ」
「いやだ。X号の仕事のお手つだいをさせられてたまるものか」
「吠《ほ》えるのはよしたほうがいいよ。わしは、だれがなんといおうと、計画したことはやりとげるのだ」
 X号は、それからのちは山形警部の怒号《どごう》にはとりあわなかった。彼は仕事にかかった。彼は、機械人間に命じて、山形警部をおさえつけ、その頭に脳波受信機《のうはじゅしんき》の出力回路《しゅつりょくかいろ》を装置してある冠《かんむり》をかぶせた。そして警部を大きな脳波受信機の函《はこ》の中へ押しこんで、ぱたんと蓋《ふた》をした。警部は冠をかぶせられたときから後は、別人のようにおとなしくなってしまった。それは彼が麻痺状態《まひじょうたい》に陥《おちい》ったがためであった。彼は、もう自分で考えることもしゃべることもできず、一個の機械とかわらぬ生体《せいたい》となってしまったのである。
「よしよし、それでその方はよし。こんどは博士の方にかかろう。ちょっと手ごわいかもしれないが、なあに、やっつけてしまうぞ」
 X号は、機械人間に命じて、谷博士をこの実験室に引っぱって来させた。博士は、目は見えないながら、危険を感じて、しきりに抵抗した。しかし、やつれきった博士が、機械人間に勝つはずはない。ついに博士はX号が持ちだした椅子にしばりつけられ、そして脳波受信機の収波冠《しゅうはかん》を頭にしっかりと鉢巻《はちま》きのようにかぶせられた。博士はそ
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