「この種の実験は、気ながに待たなくてはならない。急ぐな。あせるな」
 博士は、自分自身に、そういって聞かせるのであった。それにしても、待つことのあまりに長すぎるため、博士はだんだんあせってくるのだった。
「きょうこそは。きょうこそは。三千万ボルトを越える雷よ。わが塔上に落ちよ」
 博士のとなえることばが、呪文《じゅもん》のようにひびく。
 もし待望の三千万ボルトを越える超高圧の空中電気がこの塔に落ちたら、この研究所の大広間の天井につってある二つの大きな球形《きゅうけい》の放電間隙《ほうでんかんげき》に、ぴちりと火花がとぶはずであった。
 雷鳴は、いよいよはげしくなる。
 塔は、大地震にあったように揺《ゆ》れる。
 そのときだった。
 ぴちん。ぴちぴちん。
 空気を破るするどい音。ああ、ついに火花間隙に電光がとんだ。
 いよいよ超高圧の雷雲が、塔の上へおしよせたのだ。
「今だ」
 博士は、足もとに出ているペタル式の開閉器を力いっぱい踏みつけた。
 と、その瞬間に、ガラス箱の中が、紫の色目もあざやかな光芒《こうぼう》でみたされた。皿の上の人造生物を、左右両脇より包んでいるように見える曲面盤《きょくめんばん》の無数の針の先からは、ちかちかと目に痛いほどの輝いた細い光りが出て、それが上下左右にふるえながら、皿の上の人造生物をつきさすように見えた。
 すると皿の上の例のぶよぶよした人造生物は、ぷうッとふくらみはじめた。みるみる球《きゅう》のようにふくれあがり、そしてそれが両がわの曲面盤のとがった針にふれたかと見えたとき、とつぜんぴかりと一大閃光《いちだいせんこう》が出て、この大広間を太陽のそばに追いやったほどの明かるさ、まぶしさに照らしつけた。
「あッ」
 博士は、思わず両手で目を蔽《おお》ったが、それはもうまにあわなかった。博士は一瞬間に目が見えなくなってしまった。そして異様《いよう》な痛みが博士の全長を包んだ。博士は、苦痛のうめき声とともに、その場にどんと倒れた。
 そのあとに、ものすごい破壊音《はかいおん》がつづいた。破壊音のするたびに、何物かの破片《はへん》が、博士のところへとんできた。その合間に、砂のようなものが、滝のように降ってきた。博士ははげしい苦痛に、やっとたえながら、それらのことをおぼえていた。
 だが、それはながくつづかなかった。
 まもなく、第二のか
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