くなった。附近の山々は、早くも衣がえにうつり、今までの緑一色の着物を、明かるい黄ばんだ色や目のさめるような赤い色でいろどった美しい模様のものに変えはじめた。
 そのころのある日。
 とつぜん谷博士が、この研究所へ戻って来た。
 もちろんこの三角岳の研究所は、すぐる日の大爆発でなかば崩壊《ほうかい》し、それにつづいて怪《あや》しい機械人間のさわぎでもって、この研究所はいよいよ気味のわるい危険なものあつかいされ、村人たちもだれ一人ここには近づかず、雨風にさらされ、荒れるにまかされていたのであった。
 ただ、この方面の登山者たちの目に、谷研究所の半崩壊の塔《とう》が、怪しくうつらないではすまなかった。
「あのすごい塔は、どうしたんだね」
「へえ、あれは谷博士さまの研究所でございましたがね。なんでも雷《かみなり》さまを塔の上へ呼ぶちゅう無茶《むちゃ》な実験をなさっているうちに、ほんとに雷さまががらがらぴしゃんと落ちて、天にとどくような火柱《ひばしら》が立ちましたでな、それをまあ、ようやく消しとめて、あれだけ塔の形が残ったでがす。博士さまの方は、目が見えなくなって、それから後はどうなったことやら。おっ死んでしまったといううわさもあるが、いやはやとんでもねえことで、そもそも雷さまなんかにかかりあうのが、まちがいのもとでがす」
 山の案内人は、こんなふうに説明するのであった。
「それはすごい話だ。時間があれば、ちょっとよって見物したいが、あいにく行く余裕がない。せめてあのすごい塔を、カメラへおさめていこう」
 と、写真機を塔へ向ける。
「よし、君が写真をとるあいだ、ぼくは、双眼鏡《そうがんきょう》でちょっくら見物しよう」
 一人は八倍の双眼鏡を目にあてて、塔に焦点《しょうてん》をあわせる。
「ほほう、双眼鏡で見ると、いよいよすごい塔だ。……おや、あの塔にだれかいるね。人間がひとり、塔の中を歩いているよ」
 双眼鏡の男が、そういう。すると案内人がぴくんと肩をふるわせた。
「だんな、ほんとうですかい。ほんとに人間があの塔の中にいますか」
「いるとも。ちゃんと見える」
「はて、何者かしらん。このあたりの衆《しゅう》はだれひとり近づかないはず。だんな、その人はどんな姿をしていますか」
「ちゃんと服を着ているよ。頭のところに白い布で鉢巻《はちま》きをしている。鉢巻きではなくて繃帯《ほうたい
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