ね、ここらの話が……」
博士は、見えない顔を左右に動かして、少年たちの様子をうかがうのであった。
「ぼんやり分かりますよ」
少年は、正直《しょうじき》に返答した。
「ほう。ぼんやりでも、分かってくれると、わしはうれしい。……そこでわしは、電臓に意識をつけるために電撃《でんげき》をあたえた。三角岳《さんかくだけ》へおしよせてくる大雷雲《だいらいうん》を利用して、あの電臓へ、つよい電気の刺戟《しげき》を加えたんだ。これが成功するか失敗するか、どっちとも分かっていなかった。しかしわしは、大胆《だいたん》にその実験をやってのけたのだ」
博士のことばは、だんだん熱して来た。
「ところが、意外にも、研究所の中に大爆発《だいばくはつ》が起こった。ひどい爆発だった。まったく予期《よき》しない爆発だ。わしは一大閃光《いちだいせんこう》のために、いきなり目をやられた。わしの脳は、千万本の針をつっこまれたように、きりきりきりと痛んだ。ああ……ううーむ」
ここまで語って来た博士は、いきなりその場にもだえて、椅子から下へころがり落ちた。
さあ、たいへんである。少年たちは、博士を助けおこす組と、医局へ走る組とに分かれて一生けんめいにやった。
大宮山院長がかけつけて、博士を担架《たんか》でしずかに病室へ移すよう命じた。そして当分のうち絶対《ぜったい》に面会謝絶《めんかいしゃぜつ》を申しわたした。
少年たちは、だからもうそれ以上博士から奇怪《きかい》な超人間X号の話を聞くことができなかった。そして割りきれない胸をいだいて、病院を引きあげたのであった。
いよいよ怪《あや》しいかぎりの超人間X号は、今いずこにひそんでいるのだろうか。ダム爆破《ばくは》以来、ここに十三日になるが、彼の所在《しょざい》はさっぱり知られていないのだった。
ところが、その日の夜、三角岳の南方四十キロばかりの地点にある九鬼刑務所《くきけいむしょ》で、死刑執行中《しけいしっこうちゅう》に、怪しい影がさしたという事件があった。
死刑は絞首台《こうしゅだい》を使うことになっていた。
死刑囚は、毒殺《どくさつ》で八人を殺したという罪状《ざいじょう》を持つ火辻軍平《ひつじぐんぺい》という三十歳の男であった。
この死刑に立ちあった者は、三人であった、一人は執行官、もう一人はその下でじっさいの仕事、つまり死刑囚の首に綱
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