だすぞ」
 江川が機械人間の手から赤鉛筆をもぎとった。大池は機械人間を突きとばした。
 機械人間は、びくともしなかった。大池の方が腕を痛めて、痛そうにさすっていた。
「私のいうことは正しい。うそと思うなら、私について来なさい。私は、ダム建設の失敗箇所《しっぱいかしょ》へダイナマイトをあててみる。それでこのダムがひっくりかえったら、私のいったことは正しいのだ。来たまえ、諸君」
「きさまは化物であるうえに、気も変になっているんだな。いったいだれがこの機械人間をあやつっているのだろう」
「早く来たまえ。このダムはかんたんにくずされるのだ」
「はははは。何をいうんだ。おどかすな。見に行ってやることはないよ」
「ちょっと大池君。あの化物が手に持っている箱には、ダイナマイトと書いてあるぜ。本物のダイナマイトを持っているんなら、たいへんだぜ」
「なあに、よしや本物のダイナマイトであろうとも、ダムがひっくりかえるなんてことはないさ。とにかくあの化物を遠くへ追いはらう必要がある――」
 といっていたとき、とつぜん天地はくずれんばかりに振動し、それにつづいて腹の底にこたえる気味のわるいごうごうの響《ひび》き。
「おやッ」
 と大池と江川が顔を見あわせたとき、二人の少年がかけこんで来た。
「たいへんですよ。機械人間が今、ダイナマイトの箱をダムに叩きつけたんです。ダムは決潰《けっかい》して、ものすごい水が下へ大洪水《だいこうずい》のようになって落ちていきます。たいへん、たいへん。早く出て来てください」
 たいへんだ。あの怪しい機械人間は、あっさりダイナマイトをダムにぶっつけて、巨人ダムをひっくりかえしてしまったらしい。二人の所員は、その場に腰をぬかしてしまった。


   怪物《かいぶつ》の行方《ゆくえ》


「あッ、たいへんだ。早く、ふもとの村へ危険を知らせるんだ」
「どこへ一番はじめに、電話をかけますか」
「どこでも早くかけろ」
「じゃあ、第二発電所を呼びだしますか」
「だめだ。もうあのおそろしい水は、第二発電所へぶつかって、おしつぶしているだろう。南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》だ。もっと下へ電話で危険をしらせろ」
「じゃあ、どこへかけりゃいいんですか。はっきりいってください」
「おれはよく考えられないんだ。君、いいように考えて電話をかけてくれ」
「困ったなあ」
「あッ、だれか鐘をなら
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