て、
「博士、そういう大噴火の後に来るものは? それはいったい何です。早く聞かせてください」
「……」
博士は、無言で立ち上った。このとき博士の顔面から、血の気が、さっと引いた。
「どうしたのですか、北見博士」
「ああ――」
博士は、うめいた。
「おお、これは大きいぞ。大地震の襲来だ。さあ、あなたがたは、すぐ避難せられたらよかろう。とうとう、恐るべきものが、大徴候を投げつけたぞ」
そういって、博士は、よろよろと足を踏みしめ、戸口の方へ歩いていった。
戸口を護っていた警官が、おどろいて博士を押し戻した。
「なにをする。貴公も、早く避難することじゃ」
「ごまかして、逃げだそうとしても、そうはいきませんぞ。元の席へ、おかえりなさい」
警官は、腕を突張って、博士を叱りつけた。
そのときであった。
床が、ぐらぐらと持ち上った。
「ああっ!」
一同が愕く間もなく、床は、またすーっと下におりた。
「地震らしい。へんな地震だ」
そういっているとき、気持のわるい地鳴りが、人々の耳をうち、そしてその音は、しだいに大きくなり、やがて、どーん、どーんと、巨砲をうちでもしたような音とかわった。そのころ、室内は、荒波にもまれる小舟のように上下左右に、はげしく揺れ、壁土は、ばらばらと落ちる、窓ガラスは大きな音をたてて壊れる。濛々たるけむりの中に、総監をはじめ一同は、倒れまいとして、互いにしっかと、身体を抱きあっていた。
火山総活動
植松総監は、急に忙しい身の上となった。
なにしろ、思いがけない大地震のため、堅牢を誇っていた警視庁は、無残にも、半壊してしまった。
そういうわけだから、東京全市にわたって、倒壊家屋は数しれず、しかも先年の震災のときと同じように市内七十数カ所から、火災が出た。
警防団は、すぐさま手わけをして、組織的な消防作業をはじめた。市民たちは、すこしばかりの荷物をまとめて、続々と郊外へむけて避難を開始した。
電気は、すぐとまってしまったので、人々は、歩いていくほかはなかった。トラックや自動車はあったけれど、これはすべて、ただちに徴発されて官公用になってしまった。
放送局だけが活躍をして、さまざまのニュースを伝え、市民たちに警告を発した。しかし、市民たちの持っていた受信機は、交流式だったから、放送局は、ただ自分ひとりで忙しそうに活躍しただけのことで、効果はいっこうあがらなかった。
そのかわり、自動車に、電池式の受信機と高声器をつんだ移動ラジオが、すこぶる活躍をして、避難民や、火事場で活動している市民たちへ、ニュースを送った。
そのニュースの中に、市民たちの予想もしなかったものがまじっていた。
「――このたびの地震は、全国的であります。震源は、一カ所ではなく、同時に十数カ所にのぼるものと思われます。北の方から申し上げますと、まず帯広付近、青森県においては……」
というわけで、地震は、まことにめずらしい話だが、全国的に、ほとんど同時に起ったのであった。
そんな奇妙なことがあっていいだろうか。従来、震源地は一カ所にきまっていたようなものである。別のニュースは、それについて、一つの解説を与えていた。
「――中央気象台の発表によりますと、このたびの驚異的大地震は、わが国の七つの火山帯の総活動によるものでありまして、従来五十四を数えられた活火山は、いずれも一せいに噴火が増大しました。また従来百十一を数えられた休火山のうち、その三分の二に相当する七十四が、このたびあらためて噴火を始めました。中でも、富士火山帯の活動はものすごく、富士山自身もついに頂上付近より噴煙をはじめました。今後さらに活発になるものと思われます……」
富士山が噴火をはじめたというのだ。
なんという驚きであろう。市民たちは、それを聞くと、争って西の空を仰いだ。
すると、ようやく暮色せまった西空が、火事のように赤く焼けているではないか。夕焼とはちがう。
「おお、あそこだ。富士山が燃えている」
真赤な雲の裾から、左右に、富士山のゆるやかな傾斜が見えていた。山巓のところは、まさに異状があった。黒いような赤いような大きな雲の塊が、すこしずつ、むくむくと上にのびあがっていくのが見える。そして、ときどき、電気のようなものが、慄えながら見入っている人々の目を射た。
富士山の噴火は、ついに事実となって、市民の目の前に現われたのである。
余震は頻々として、襲来した。いや、余震ではなく、新しい噴火や爆発が、ますます強度の地震を呼び迎えたのであった。
東京市民は、だんだんと事態の容易ならざることを悟るにいたった。ニュースは、ほんのわずかしか伝えられないが、この調子では、さだめし全国的に、たいへんな被害が生じていることであろう。
火災、海嘯《つな
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