でに大砲が鳴り、爆音が響いているというお話だが、それは、具体的にいうと、どんなものでしょうか。どこかの地方が、急に気温が下がりだしたという報告でもあるのでございましょうか」
総監は、熱心を面にあらわして、博士に迫っていった。博士は、それをきくと、大きくうなずき、
「氷河期の徴候は、もうだいぶ現われはじめている。第一は、このごろの、へんに熱くるしい気温のことだ。冬だというのに、まるで四、五月ごろの気温ではないか。それに近頃、東京地方では、地震が頻発しているが、これもその前徴の一つである」
「気温が高いということは、氷河期とは、ぜんぜん反対の現象のように思いますが、いかがですか。こう暖かければ、なかなか氷河期なぞ来ないだろうと思われます」
「それは素人考えだよ。今に見ていなさい。大きな地震がやってくる。一度や二度ではない。記録にもないほどの大地震が頻発するのだ。それから、火山が活動をはじめるだろう。それも記録破りの大活動をな。それは、もう間もなく起るだろう。そのときは、わしのいった言葉を思い出すがいい」
やがて、頻々と大地震が来る。そして火山が活動をはじめる。――博士は、それがいよいよ氷河期の徴候だというのだった。
総監は、博士の言葉が、いっこう腑におちなかった。彼は、いっしょに連れ立ってきた四人の権威者の方をふりむいた。
ところが、その四人の権威者は、いずれも眉をひそめて、博士には知れないように、かすかに首を左右にふった。
(博士のいうことは、信頼できませんよ)
(やっぱり、精神病者ですよ)
総監に対して、このように報告しているようであった。
総監は、あらためて博士の方に向きかえり、
「博士。私は素人ですから、結局、博士のお話がわからないのだとは思いますが、地震や噴火がはげしくなれば、気温は、いよいよ上昇するのではありませんか。むかし、関東地方に大地震がありました年も、十一月ごろまで、初夏のような温暖な気候がつづいたことを憶えております」
と、突っ込んだ。すると博士は、
「あの大地震と、今度の大地震とは、まったく程度もちがえば、性質もちがう。今度の大地震は、地球の周期的大爆発だから、地震は、地球全面に起り、噴火も日本だけではなく、殆ど全世界に起る。そういう大噴火の次に来るものは――」
といいかけて、そのとき博士は、なぜか口をつぐんだ。総監は、やきもきし
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