わちヤミカワ、キチンドなる名を逆に読めばワカミヤ、ドンチキにして、こは彼の小説家らしき仕業なりと思料《しりょう》す。
 三 闇川吉人は一脚すら売飛ばせるものにあらず。況《いわ》んや最後に残りたる脳細胞を動物園のゴリラに移植したるなどのことは全然虚構に属する妄想なり。只《ただ》、一日吾は彼を散歩に連れ出し、落花紛々《らっかふんぷん》たる下を動物園に入場し、ゴリラの檻の前に至りたる事、及び彼がゴリラの檻へ近付かんとしたるを以て、吾は愕《おどろ》いてそれを引留めたるは事実なり。
 吾は、不幸なる闇川吉人が、幸いに瀬尾教授の手篤《てあつ》き手術によりて、戦前の如き健全なる彼にまで恢復することを祈念してやまざるものなり。



底本:「海野十三全集 第11巻 四次元漂流」三一書房
   1988(昭和63)年12月15日第1版第1刷発行
初出:「富士」
   1945(昭和20)年11月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:kazuishi
2005年12月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、イ
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