識《し》らずのうちに、それと反対に自己を破壊し尽していたのだ。こんな悲惨な出来事があるだろうか。私にとっては、それは大なる悲劇であるが、世間の人達にとっては、この上もなくおかしい喜劇だというであろう。
私はすっかり自信と希望とを喪《うしな》ってしまった。私は急に病体となった。心も体も、日ましに衰弱していった。思考力が、目立って減退《げんたい》し始めた。記憶も薄れて行く。こんなことでは、本来の自己の最後の財産である脳髄までが腐敗を始め、やがて絶対の無と化してしまいそうだ。この新《あらた》なる予感が、重苦しい恐怖となって私の全身を責《せ》めつける。
私は一日医書を繙《ひもと》き、「若返り法と永遠の生命」の項について研究した。その結果得た結論は次の如きものであった。
“臓器や四肢を取替えることによって見掛けの若返りは達せらるるも、脳細胞の老衰は如何ともすべからず、結局永遠の生命を獲得することは不可能である”
私は失望を禁じ得なかったが、そのうちに不図《ふと》気のついたことは、この医書はかなり版が古いことである。そこで今度は近着の医学雑誌を片端から探してみた。するとそこに耳よりな新説が記
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