るだろう」
と鳴海は皮肉をいう。私はそれに構《かま》わず言った。
「もはや現代の医術は天才的特技ではなくなった。それは普遍性ある機械的技術となり、機械力によりさえすれば誰にも取扱えるものとなりつつある。わが和歌宮先生の特技と称せらるるものも実は先生が把握した真理を大胆率直に機械的技術に移し、これを駆使するのに外ならない」
「そういっちまえば、君の崇拝する和歌宮師は、魔術師の一種だてぇことになる。とにかく君は即時即刻あのような人物との関係を清算せにゃならんのだ。切に忠告する」
「何をいうか。僕のことは僕が決めるんだ」
余計なおせっかいをする鳴海を、とうとう追出すようにして帰って貰い、私はそれからすぐさま迎春館へ行って両脚を売却した。こうしてしまえば、いくら鳴海だってもううるさいことはいえないのだ。なお私は両脚の代償として、予《か》ねて珠子から望まれていたとおりの五ヶ年若き青春と代りの脚一組とを購《あがな》い、その場で移植して貰った。
疑惑
珠子は、果して大悦《おおよろこ》びだった。私の予期した以上の悦び方だった。私の両手を握って見較《みくら》べ、以前よりも艶々《つやつや》してきたと褒めた。
それから私達は、ヨットに乗って、瀬戸内海の遊覧列島へ出発した。
幸福な、そして豪華な生活に、私たちは暦《こよみ》を忘れて遊び廻った。が、このような生活もいつしか飽《あ》きを覚える時が来た。勘定してみると、丁度《ちょうど》三ヶ月の月日が経っていた。そこで私達はどっちからいい出すともなくそれをいい出してこの島を離れ、元の古巣である都会へ引返した。
私は珠子と同棲するために新しい住居《すまい》を見つけるつもりでいたところ、珠子はそれに反対だった。同棲するには準備もいることだし、旧居を片付けるためにも時間を要するから、大体あと五週間の余裕を置いてくださらないと訴えた。私は、五週間はちょっと永すぎると思ったが、折角《せっかく》珠子のいうことだし、それでよろしいと承知した。私達は、停車場の前で左右へ別れた。そしてそれ以来今日まで約二週間、私は珠子に会わないのである。
私としては、同棲はしないまでも、私が珠子を訪問することは彼女の歓迎するところであろうと思ったので、停車場前で別れたその翌日には、彼女を美蘭寮《びらんりょう》に訪ねたのであった。ところが、寮はあったが、彼女は
前へ
次へ
全18ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング