《いくどうおん》に叫んで、手で眼を蔽《おお》ったとき大月大佐の巨体は、もんどりうって氷上に転がった。
 と、それと入れ替えのように、若鷹丸の船影は、全く氷上から姿を消し、海底ふかく沈没してしまった。
 もう五秒も遅れると、大月大佐の身体は船体もろともに、氷の下にひきずりこまれたであろう。全く間一髪という危いところで大佐の生命は救われた。隊員おもいの大佐に、神様が救いの手をさしのべたせいであろう。
 丁坊はこの息づまるような避難作業の一部始終を、魅《み》いられるように氷上でみつめていたが、隊長が最後に救われたと知った瞬間、両眼から涙がどっと湧《わ》いてきて、眼の前がまったく見えなくなってしまった。
 なんという感激すべき人達だろう。さすが日本人だ。


   天幕生活《テントせいかつ》


 若鷹丸の沈んだ跡は、しばらくのうちは氷が船の形に明いていて、黒い水が淀《よど》んでいたけれど、そのうちにどこからともなく氷片がぶくぶくと浮いて来て、次第に白く蔽《おお》われていった。
 氷上には、早速《さっそく》天幕《テント》が急造された。大きいのが一つに、小さいのが三つできた。
 大きい方には、大
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