があるので、丁坊のまるい身体は、氷上をころころと毬《まり》のように転《ころが》ってゆく。はやく助けてくれなければ、いまに氷の山かなにかにぶつかって死んでしまう。はやく頼む。
 そのうちに、うしろの方で思いがけなく大きな銃声がした。
 だーん、だんだだーん。
「ああ、僕を撃《う》った。やっぱり彼奴《きゃつ》らも大悪人だ。なぜ罪もない僕をうつんだ」
 丁坊は、また大きな失望と恐怖とに陥《おちい》った。しかも間もなく、彼はそれが間違いであったことに気がついた。
 なぜなら彼の丸い身体が、急にどしんと軟《やわらか》い白いものに当ったからである。それに落下傘の綱がうまくひっかかったものだから、それ以上、氷原を転がらなくてもいいことになった。その白い軟いものをよくよく見れば、それは大きな白熊だった。
 こわい!
 いや、こわくはない。その白熊は顔面をまっ赤に染めて、氷上にぶったおれていたのだ。血だ、血だ。その赤い血は、傷口からふいて氷上に点々としたたっていた。
「ああ、あぶないところだった」
 毛皮を頭からかぶった真先《まっさき》にとんできた人間が、銃の台尻《だいじり》で熊の尻ぺたをひっぱたいて、
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