らくは目があかなかった。いよいよもうおしまいだ。「笑い熊」機長の大うそつきめ!
この間《かん》数十秒というものは、丁坊が生れてはじめて味わった恐ろしさであった。
だが、これでいよいよ自分は死ぬんだなと覚悟がつくと、こんどは急に気が楽になった。そして変なことだが、なんだかたいへん可笑《おか》しくなった。あっはっはっと笑いだしたいような気持におそわれた。
「――おや、僕は気が変になるんだな」
気が変になるなんて、なんて情《なさけ》ないことだろうと、丁坊は歯をくいしばって残念がった。
「どうにでもなれ。これ以上、自分としてはどうすることもないんだ」
丁坊はすべてを諦《あきら》めて、そしてこの上は、せめて日本人らしく笑って死のうと思った。ただしかし、東京にいるお母さんに会えないで死《し》ぬことが悲《かな》しい――。
落下傘《らっかさん》
死の神の囁《ささや》きが、丁坊の耳にきこえてきた。
「いよいよ最期《さいご》がきた。――」
と思った丁度《ちょうど》そのとたんの出来事だった。彼の身体は、急に上へひきあげられたように感じた。
「おや、――」
びっくりして、彼は空を見上
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