に入れても痛くないというほど可愛《かわ》いがっているお母さんにも、全《まった》くわかっていなかったろう。


   戦争の噂


 それは、まだごはんにはすこし早いという或る冬の日だった。
 丁坊は非番でホテルへはいかず、自分の部屋で、飛行機づくりに夢中になっていた。
 そのとき遠くの方で、ピピーという口笛が鳴った。
「ああ、口笛が鳴った。清《きよ》ちゃんだね。そうだ今日はユンカース機を見せてやろう」
 そういって彼は、長い竹をとりあげて、天井に釣《つ》ってあったユンカースの重爆機《じゅうばくき》の模型を畳《たたみ》の上におろした。
 ばさーっ。
 玄関に、夕刊の投げこまれる音がした。
「おーい清ちゃん。こっちの窓へお廻りよ」
「ああ、いまいかあ。――」
 とんとんと土をふんで、林檎《りんご》のように赤くて丸い顔をした鉢巻《はちまき》すがたの少年が、にっこりと窓の外から顔を出した。
「やあ丁坊。早く見せておくれよ。今日は本社の配達がたいへん遅れちゃったんで、これからいそがなきゃならないんだよ」
 吉岡清君《よしおかきよしくん》は、動物園のお猿のように、窓の鉄格子《てつごうし》につかまっ
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