いことであった。
空魔艦は、若鷹丸探険隊員の手によって、うまく分捕《ぶんど》ることができた。しかしこれをどうして日本まで動かしたらいいのであろうかと、大月大佐たちは困っていた。
そこへ突然、探険隊の消息《しょうそく》を心配して日本から有力な飛行隊が大挙して飛んできたので、大月大佐以下は生命をすくわれた上、この大きな土産《みやげ》空魔艦を捕虜とともに飛行隊へ手わたすことができて、重なる悦《よろこ》びであった。もしこの救援飛行隊が、もう四五日もはやくこの極地へとんでくれば、そのときは空魔艦とはなばなしい戦闘をしたことであろうが、丁坊の勇ましい言葉によって決死隊をさしむけた若鷹丸探険隊が、一足お先に手柄をたててしまったことになった。
お母さんは、丁坊の帰京を、ゆめかとよろこんだ。おなじ心配をしていた吉岡清君もその妹ユリ子もすぐ丁坊のうちへとんできて、うわーっといってだきついた。
丁坊はもうホテルの給仕《きゅうじ》をやめてしまって、立派な飛行機博士になるために、いまでは上の学校へ通って勉強をしている。
いつも丁坊の味方になっていた中国人チンセイは、丁坊につれられて東京にやってきたが、大月大佐などの力ぞえで、銀座裏に小さい中華料理店を開業している。どうかみなさんも折があったら、チンセイの店をのぞいてやってください。入口をはいると、すぐ正面に大きな空魔艦の額がかかっているから、知らないで店に入ったひとでもすぐ気がつくにちがいない。
では本ものの空魔艦は? それは、それ航空館へゆけば、陳列してあるのが見られる。館長大月大佐にたのむと、よろこんで空魔艦征伐のときの説明を、身ぶりたくさんでしてくれるであろう。
底本:「海野十三全集 第9巻 怪鳥艇」三一書房
1988(昭和63)年10月30日第1版第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:土屋隆
2005年5月3日作成
2008年7月4日修正
青空文庫作成ファイル:
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