て覗《のぞ》きこんでいる。
「じゃ、早く見なよ。これがほら、この前いったユンカースの重爆機だよ。七十四型というのだ。どうだ凄《すご》いだろう。ドイツでは、今から十年も前に、これを旅客機として作ったんだ。そのころのドイツは、軍用機を一つもつくることができなかったんだが、いざという場合には、この旅客機を重爆機として、祖国を苦しめる敵軍を爆撃するつもりだったんだ。ほら、よくごらんよ。この翼《つばさ》の形は、どうだい。操縦席《そうじゅうせき》のところも、ずいぶん凄いだろう」
「うん、凄いや凄いや」
と、清君はしきりに頭をふっている。
「もう一台つくったら、君にもあげるよ」
「うふん」と清君は遠慮ぶかい笑《え》みをうかべたが、
「ねえ丁坊、本社で聞いたんだけど、そのうち北の方で大戦争が起るんだってさ」
「へえ、北の方で大戦争が……」
と、丁坊は眼をまるくした。
「北の方って、どこだい」
「北の方って、よくは分らないけれど、つまり北極に近い方をいうのだろうさ」
「こんな寒いときにも、北極で戦争をするのかい」
「あんなことをいってらあ、北極の附近なら、年がら年中、氷が張っているじゃないか」
「それはそうだけれど、あの辺だって、夏になると、すこしは氷が溶けるのだよ、氷山なんか割れるしね」
「そうだ。――」と清君は首をひねって、
「いまの大戦争は北極を中心として、シベリヤ、アラスカ、カムチャツカなどという、日本の樺太《からふと》や北海道よりもずっと北の方へひろがるだろうといってたぜ」
「どうしてそんなところに戦争が起るんだい」
と、丁坊がたずねると、清君は新聞記者気どりで、
「そりゃ分っているよ。北の方で、世界の国々が、自分のために力をひろげておかねばならぬと喧嘩《けんか》をはじめるんだとさ。ソ連、米国、英国なんて国がさわいでいるんだよ。日本も呑気《のんき》に見ていられないだろうといっていた」
「ふーむ、日本もね」
そういっているところへ、丁坊のお母さまが飴玉《あめだま》を紙につつんで、清君にあげましょうともってきた。
「清ちゃんはえらいのねえ。新聞配達をして小さい弟や妹を養《やしな》っているんだから……」
清君はあたまを下げた。
「まだお父さんもお母さんも、御病気がよくならないのかい」
「ええ、まだなんです」
変な怪我《けが》
一家のために、けなげにも新聞
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