おこ》りなんだろうと思っていると、そうではない。
「丁太郎《ていたろう》(これが丁坊の本名だ)は飛行機がすきなんだし、それに手も器用なんですから、わたくしは飛行機づくりならいくらでもおやり、お母さんは叱《しか》らないからねといっているのでございますよ」
と、お母さんはすましたものである。
「いえね、それにうちの丁太郎は自分で働いて儲けたお金で好きな細工をやっているんですから、云うことはありませんよ。これからの世界は、わたくしたちの昔とはちがいますよ。役に立つことにはどんどんお金をつかわないと、えらい人にはなれませんよ」
と、お母さんは近所の奥さんに話をして、とくい[#「とくい」に傍点]のように見えた。こんなふうだから、丁坊はいよいよ飛行機模型づくりに熱心になって、三間《みま》しかないお家の天井という天井には、いまでは大小さまざまの飛行機模型がずらりとぶらさがっていて、風にゆらゆらゆらいでいる。だから蠅《はえ》などは、それにおどろいて、丁坊の家に入ってきても、すぐ逃げていってしまう。
このような丁坊の飛行機好きが、後になって、大変なさわぎを起そうなどとは、当人はもちろん丁坊を眼の中に入れても痛くないというほど可愛《かわ》いがっているお母さんにも、全《まった》くわかっていなかったろう。
戦争の噂
それは、まだごはんにはすこし早いという或る冬の日だった。
丁坊は非番でホテルへはいかず、自分の部屋で、飛行機づくりに夢中になっていた。
そのとき遠くの方で、ピピーという口笛が鳴った。
「ああ、口笛が鳴った。清《きよ》ちゃんだね。そうだ今日はユンカース機を見せてやろう」
そういって彼は、長い竹をとりあげて、天井に釣《つ》ってあったユンカースの重爆機《じゅうばくき》の模型を畳《たたみ》の上におろした。
ばさーっ。
玄関に、夕刊の投げこまれる音がした。
「おーい清ちゃん。こっちの窓へお廻りよ」
「ああ、いまいかあ。――」
とんとんと土をふんで、林檎《りんご》のように赤くて丸い顔をした鉢巻《はちまき》すがたの少年が、にっこりと窓の外から顔を出した。
「やあ丁坊。早く見せておくれよ。今日は本社の配達がたいへん遅れちゃったんで、これからいそがなきゃならないんだよ」
吉岡清君《よしおかきよしくん》は、動物園のお猿のように、窓の鉄格子《てつごうし》につかまっ
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