ことかと、丁坊は片唾《かたず》をのんで窓の外の、人のゆききをながめている。
 するとそのとき、少年のうしろの扉があらあらしく開いた。
 はっとうしろをふりかえると、防毒面《ぼうどくめん》に防毒衣《ぼうどくい》をつけた人相のわからない者が、二人ばかり入ってきた。
 なにか分らぬ言葉で叫ぶと一人が逞《たくま》しい両腕をのばして、丁坊をむずとつかまえた。
「な、なにをするんだ」
 丁坊は、力のかぎりはねまわった。が、とても大人の力に及ばない。そのうちにもう一人がもってきた袋のようなものの中に、丁坊のからだはすぽりと入れられてしまった。その袋は丁坊の首のところでぎゅーとバンドがしまるようになっていた。
 二人の怪しい男は、防毒面の硝子《ガラス》ごしに、にやりと笑ったようである。
 それから二人は、丁坊を入れた毛皮の袋を両方からかついで、飛行機の外にはこびだした。
 一体どうなることだろう。
 丁坊の運命はいまや、あやしいみちをとおっている。
 やがて丁坊の入った袋は氷上にどしんとおかれた。
 すると左右から、いずれも怪しい服をつけた人間が十四五人あつまってきて、丁坊をまんなかにぐるりとまわりをとりまいてしまった。


   危《あやう》き一命《いちめい》


 毛皮の袋の中に入れられ、首だけちょこん[#「ちょこん」に傍点]と外に出している丁坊を、ぐるりと取巻いた十四五名の防毒面の怪漢たちは、丁坊を指しながらなにごとか分らぬ国のことばで、べちゃくちゃと喋《しゃべ》っていた。
「なんだ。なにを騒いでいるのだろう。ははあ! 僕をどう始末《しまつ》しようかと相談しているらしいぞ」
 丁坊は、怪漢たちの心の中をそういう風に察した。
 そして、どうなるのだろうと成《なり》ゆきをみていた。はたして、しばらくすると、その中の一名が、ほかの人をおしのけて、丁坊のまえにつかつかと出てきた。そしていきなり丁坊の鼻のさきへ、ピストルの銃口をむけた。
「あッ、僕を殺そうというんだな。殺されてたまるものか。うぬッ――」
 と、丁坊は、かなわないまでも、その怪人にくいつこうと思って、一生懸命に立ちあがろうとしたが、どうして立ちあがれるものか。なにしろ丁坊は、首だけ外にだして袋の中に入っているんだから、まったく自由がきかない。くやしいが、ついにこんな見もしらぬ氷原の上で、防毒面の怪人に殺されるかと思い、丁
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