なった。コーヒー沸しのふたも、まだおとなしくしている。
(一体、なんだろうなあ、めずらしいものというのは?)
三郎が、いやに考えこんでいたとき、天井につけてあった呼鈴《よびりん》が、ぶうぶうぶうと鳴りだした。それは艇長をよびだしている信号音であった。
「艇長、電話です」
三郎がいうと、地球儀のうえに筆をはこんでいた艇長は、やおら顔をあげ、
「そうらしいね。はい、艇長は電話にかかった」
“はい、艇長は電話にかかった”――ということばは一種の暗合であった。そういうことばをいうと、スイッチが、高声器の方へ切りかえられるのであった。スイッチを手で切りかえるかわりに“ハイ、艇長は電話にかかった”といえば、スイッチが切りかえられるのである。
むかし、岩の前に立って、“開けゴマ”とさけぶと、岩が二つにわれて、その間から入口があらわれるという話があるが、今はそれと同じことをやって、スイッチを切りかえられるのだった。これを、音波利用のスイッチという。
高声器から、ぷっぷっという雑音が出てきたと思ったら、とたんに大きい当直長のこえがとびだした。
「艇長。只今、地球が夜明けになりました、どんどん夜が
前へ
次へ
全115ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング