風間三郎少年と、その仲よしの木曾九万一少年とのことではあるまいか。
多分それにちがいはなかろう。
すると、二少年をとりかこんでいるあの甲虫《かぶとむし》ともペンギン鳥ともつかない怪物こそ、これぞ外ならぬ火星人なのだ!
おお何という奇怪な火星人のすがたよ!
なぜ火星人は、まるで鳥のような形をしているのであろうか。ふくろうのような大きな目を光らせているのであろうか。なぜ、あのような細い脚をしているのであろうか。あの翅《はね》のようなものはほんとうに翅なのであろうか。
いちいち考えていくと、いちいちふしぎに思われることばかりである。
一体火星には生物《いきもの》がすんでいるらしいことはわかっていたが、それがどんな形のものか、知られていなかった。だから今度はじめて火星人の姿がわかったわけである。二少年こそ、はじめて火星人を見た地球人間である。
もし今、二少年にむかい、お前たちの目の前に立っている怪物こそは火星人だぞと、そっと耳うちをしておしえてやっても、彼らは多分それを信じないであろう。なぜならば、彼らは日頃から火星人もやはり地球人間と同じように、手もあり足もあって、人体と同じ形をしているだろうと考えていたからである。
司令艇からは、すぐさまこのことが、月世界に不時着中のアシビキ号に向けて、無電でもって知らされた。
この知らせをうけとった、アシビキ号の艇長辻中佐のおどろきは、大きかった。
「おい、火星人がこの附近にいると、司令艇から知らせがあったのだ」
「ええっ、火星人がこの月世界に……」
「そうなんだ。しかも、この火星人のために、日本人が二人捕虜になっているというが、誰と誰だろうか」
「日本人が二人? はてな、誰でしょうか。では、すぐ点呼《てんこ》をしてみましょう」
「それがいい」
辻中佐の命令で、非常呼集が行われた。
乗組員一同は、なにごとであろうかとおどろいて、仕事をそのままにして噴行艇内にかけこんだ。
点呼は行われた。たしかに二人|足《た》りない。それはもちろん風間少年と木曾少年の二人であった。
「ふーむ、艇夫少年二名が、火星人の捕虜になったのか、こいつは厄介《やっかい》なことが出来た」
艇長辻中佐は、うれいをおびた面持《おももち》で、一同の前に立ち、アシビキ号の乗組員一同に対して司令艇から通知のあったようすをはじめて知らせたのであった。
「なに、火星人が、この月世界にいたのですか。それは意外だ」
「アシビキ号が、不時着で修理中のところをねらって火星人は一あばれする気だな」
乗組員たちは、拳《こぶし》を固めて、艇の外をにらんだ。
斥候隊《せっこうたい》の行方《ゆくえ》
火星人が、アシビキ号の乗組員に対して、どんな気持をもっているか、それはぜひ早く知りたいことだった。
だが辻中佐をはじめ、乗組員一同には、今のところ、火星人の気持を知っている者は、只の一人もいなかった。
しかし二少年を捕虜にしたという話だから、一応これは、火星人が地球人間に対して敵意をもっているものと思って注意をするがいいであろう。そう思った辻中佐は、総員に対して一時噴行艇の修理の中止を命令し、そして火星人に対しての警戒陣をしかせたのであった。
一同は、それぞれ武器をもって立上った。決死の斥候隊が五隊編成せられ、直ちに噴行艇を出発した。それは二少年と火星人の所在をつきとめるためだった。
約半数の乗組員は、噴行艇のまわりに立って、警戒の位置についた。
残りの乗組員は噴行艇の機関部その他に配置せられ、万一の場合には、故障のままでも、ともかくも月世界から離陸できるように用意をととのえて待つこととなった。
辻中佐は、アシビキ号幕僚と共に噴行艇の一司令所にたて籠《こも》って、どんな司令でも出せるし直ちに通信もできるような位置についた。
今なお大宇宙を予定の針路どおり飛んでいる司令艇からは、アシビキ号に向けて、たえず無電で問いあわせがあった。アシビキ号のことを、たいへん心配して、無電をうってくるのであった。
辻中佐は、斥候隊から、いい報告が入るのを、今か今かとまちうけていた。しかし彼らが出発してからもう一時間にもなるのに、何のいい報告も入らなかった。
“第一斥候隊報告。只今、ミドリ大溝を、カンガルーの如《ごと》く飛び越えたところ”
だとか、
“第二斥候隊報告。只今、サギ山の頂上にあり、附近を念入りにしらべたるも、何の手がかりなし”
だとか、どの報告も似ったりよったりであった。
五つの斥候隊のうち、どうしたわけか、第四斥候隊だけが、出発以来、何の報告もしてこないのであった。
「どうしたんだろうなあ、第四斥候隊は」
と、艇長辻中佐は、幕僚をふりかえった。
「さあ、どうしたわけでしょうか。こっちからも、さっきからた
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