禿《は》げているところがあり、頭の上には、りっぱな角のような触角が二本、にゅっと出ていた。頭の、その他のところは河馬《かば》のように妙にうす赤い色をおび、てらてらと光っていた。
 それから胴は、鳥のようにふくれていた。しかし腹のところは、鎧をきたようになっていて鳥とはちがう。背中には、甲虫の翅《はね》と同じような翅が畳みこまれているようであった。その翅のつけ根の横には、触角とはちがい、もっとぐにゃぐにゃしたゴム製の管のようなものがついていた。それはたいへん長くて、地上に達していたが、うごいているうちに、急に短くちぢんでしまうこともあった。これは手の代用物であろう。触手というものかもしれない。とにかく、いまだきいたこともないふしぎな生物であった。
 もう一つ、ふしぎなのは、その怪物の足であった。足は、その怪物の下腹のところから二本にゅっと出ていた。その足はちょっと見ると、鶴の脚《あし》に似ていた。しかしよく見ると、関節が二つもあり、大地をふまえるところには、五本の指があって、水かきのようなものがついていた。しかもこの奇妙な足は、どこから見ても丈夫に見えた。何だか、金属を組合わせて足の形にしたもののようにも見えた。
(一体、何だろう。この高等怪物は……)
 三郎は、そばへぴったりすりよってくる、木曾九万一の身体をかかえながら、眼をみはった。
 その怪物の中に、どうやら大将らしい怪物があった。その怪物は他の怪物と、しきりに連絡をしていたようであったが、やがて連絡がすんだのか顔を二人の方に向けた。
「おい、君たちは、日本人だろう」
 その怪物が、いきなり日本語で話しかけてきた。それには三郎は、びっくり仰天《ぎょうてん》した。
「ええっ!」と、三郎はいったきり、全身から、汗がふきだしてたらたらと流れた。
 ふしぎだ。なぜその怪物は、日本語をはなすのであろうか。第一空気もないのに、なぜその怪物のはなしが、三郎の耳にきこえるのであろうか。
 三郎はわが耳をうたがった。
「これこれ、べつに君たちの生命をおびやかすつもりはないから、安心して、われわれの問いにこたえなさい。君たちは日本人だろうね。今、かおいろをかえたじゃないか」
 怪物の首領は、にくいほど、はっきりした口調で、三郎たちに話しかけてくるのであった。
 三郎は、こたえたものかどうかと、考えているうちに、木曾が前にのりだした。そして手をあげて、何かものをいうような恰好《かっこう》をした。
 すると怪物の首領は、大きな頭をふって、うなずき、
「おお、そうか。君は、なかなか勇気があってえらいぞ。そうか、君たちはやっぱり日本人だったか」
 木曾が何かいったのが、怪物の首領に通じたものと見える。空気もないのに、なぜこっちのことばが向こうに通じたものであろうかと、三郎はふしぎに思った。が、それよりも、木曾に勝手なおしゃべりさせてはならないと思ったので、彼は木曾に注意をするつもりで自分の触角を木曾の方によせた。
「おい、君たち同志、勝手に話をしてはいけない」
 首領は、早くも三郎の心をみぬいて、しかりつけた。
 ああ、一体この智慧のすぐれた怪物は、一体何者なのであろうか。


   司令艇《しれいてい》クロガネ号


 話は、ここで風間少年たちや、月世界に不時着した噴行艇アシビキ号からはなれて、今なお堂々たる編隊でもって、大宇宙をとんでいるわが噴行艇の本隊にうつる。
 この本隊では、はじめ百七十隻だったが、途中アシビキ号をうしなって、今はのこりの百六十九隻が固まってとんでいる。
 隊の先頭には、嚮導艇《きょうどうてい》ヨカゼ号が、只一つ勇敢にも、ぐんぐんと宇宙の道を切開いていく。この嚮導艇の艇長は、松宮一平《まつみやいっぺい》といって、予備ではあるが、海軍の飛行兵曹長であった。
 その嚮導艇ヨカゼ号から二キロメートルの後方に司令艇クロガネ号が居り、その後に噴行艇の大編隊がつづいているのであった。
 司令艇クロガネ号!
 この司令艇には、大宇宙遠征隊の司令が幕僚《ばくりょう》をひきつれてのっている。
 司令は誰あろう、この前の第三次世界大戦の空戦に赫々《かくかく》たる勲功《くんこう》をたてた大勇将として、人々の記憶にもはっきりのこっている、あの隻脚《せっきゃく》隻腕《せきわん》の大竹《おおたけ》中将であった。
 この噴行艇隊は、一体なにを目的として、大宇宙遠征の途についているのであろうか。
 遠征の目的は、まだ人類が試みたことのないたいへんな仕事をするためであった。
 たいへんな仕事とは、なんであろうか。それはムーア彗星《すいせい》にある超放射元素で、ムビウムという非常に貴重な物質を採ることであった。
 ムビウム超放射元素!
 この貴重な元素のことを知っている者は、あまり多くない。このムビウムは、す
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