のそばには、アロタス大星雲がギラギラと輝いていたので、ムーア彗星の世界は、地球の二倍ぐらいの明るさだった。
大宇宙遠征隊の隊員は、全員とも気密塗料を塗った宇宙服をつけた。その宇宙服の眼のところには、あたりの明るさに眼をやられぬように、濃い色のついた遮光硝子《しゃこうガラス》がつけられていた。
が、それよりも何よりも、このムーア彗星に降りて第一歩を印した隊員が愕《おど》ろいたのは、この大彗星が地球の数十倍もある巨大なものだったし、質量も大きかったので大変な重力であり、そのままではあまりに身体が重く感じ、殆《ほと》んど立っては歩けぬ、ということだった。大の男たちが、赤ん坊のように、ようやく這《は》って歩くような始末だった。
月世界で、あのちょっと跳ねると、ふわっと飛んでしまう身軽さを知っている風間と木曾はびっくりしてしまった。
「おどろいたね、三《さ》ぶちゃん」
「なんだか、身体中が鉛になったみたいだね、うっかりしていると地面に貼《は》りついてしまうぜ」
「うーん」
「そうだ、クマちゃん、辻艇長の特別スイッチを入れろ!」
「そうだ、アッ、らくになったぞ」
この辻艇長の特別スイッチというのは、辻中佐が、あの火星人の皿のような乗物につけてあるという引力遮断機から思いついた引力滅殺装置で、それが宇宙服にもつけられてあるのだった。このお蔭《かげ》で一同は、予定通りの作業をすることが出来た。
貴重物質ムビウム。
この命がけの大冒険をして来た目的の、ムビウム。
そのムビウムは、果して緑川博士の予想通り、この大ムーア彗星には無尽蔵といってもいいほどあるのだ!
*
総員四万名に余る未曾有《みぞう》の大宇宙遠征隊の目的は、ここに半《なか》ばを達したのだ。この至るところにあるムビウムを、どんどん採集して地球に持ち帰ればいいのだ。
この分では、最初の予定よりか、はるかに早く帰ることが出来そうである。
――この詳しい珍しい話は、いずれ風間少年たちが帰って来てから、ゆっくりとしてくれることと思っている。
ただ最後に、或る日の朝のラジオニュースのことを伝えて置こう。それは誰でも万歳を叫ぶニュースなのだ。
“大宇宙遠征隊司令艇クロガネ号発。本遠征隊は無事ムーア彗星に到着し、予期に数倍せる貴重物質ムビウムの採集に成功、目下極力帰航中なり。只今の位置より計算するに、本隊は今後二百三十六日十三時間二十分をもって東京に帰着する予定なり――”
底本:「海野十三全集 第9巻 怪鳥艇」三一書房
1988(昭和63)年10月30日第1版第1刷発行
初出:「国民五年生」
1941(昭和16)年4月号〜
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2004年3月5日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全29ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング