っかりしている様子だった。


   皿形の飛空機


 第五斥候隊の隊長だった艇夫長の松下梅造が、その十人の火星人の中の首領と思われる一人を、辻中佐たちのいる司令室に連《つ》れて来た。
「やあ、ご苦労、ご苦労」
 辻艇長は、斥候の労をねぎらった。
「二少年の居所《いどころ》はわかりましたか」
 松下梅造が、聞いた。
「うむ、わかっとる。目下火星へ向って飛んでおる」
 幕僚がそういうと、
「はッ?」
 松下艇夫長は、何だかわけのわからんような、びっくりしたような大きな眼をした。そして、又何か聞きたそうな様子をしたが、
「あっ、ではあの二人の少年が、われわれの飛空機を奪ってしまったのですか」
 火星人の首領がそういったので、黙ってしまった。
「いや、あの二少年が君たちの飛空機を奪ったのではないよ」
 幕僚がいった。
「しかし、私たちがいないのに、飛空機がひとりでに飛出すわけがありませんぞ」
 火星人も、なかなか負けてはいなかった。
「だから、奪ったのではないのだ。元々は君たちが悪い、あの二少年をあんな眼に合わせたので助けに行った者が発見し、あの乗物の出入口を全部閉めたらひとりでに飛出してしまったのだ」
「ああ、それでは引力遮断機が働いてしまったのだ……。何も私たちはあの二少年をひどい眼には合わせませんぞ、ただ詳しく地球のことが聞きたかっただけです」
「しかし君たちは非常に日本語がうまいじゃないか、どうして日本語を知っているんだね」
「なんでもありませんよ、私たちは地球から放送されているラジオを聞いて勉強したんです、毎日地球のラジオニュースを聞いていますから、地球上のことなら大てい知っています」
「ふーむ」
 幕僚は、びっくりしたように、うなった。あの天外の火星で、毎日地球のラジオを聞いて研究している者があるとは知らなかった。
「ふーむ、で、その引力遮断機というのはどうなっているんだね」
「なんでもありませんよ、その名のように引力を打消してしまう装置です、つまり月の上に置いて月の引力を打消し、われわれの火星の引力を受けるようにすれば、自然に舞上って火星に引かれて行ってしまうわけです。同じように月に来る時も、われわれの火星の引力を打消して月の引力に引ッ張られて来るわけです」
「ふーん、なるほどね。しかし火星人たる君たちが、こんな荒れ果てた月世界に来てどうするんだね、同じ来るならすぐ近くの地球にやってくればいいのに」
「なるほどそれは一寸《ちょっと》おかしいかも知れませんな、しかしこういうわけです。われわれの火星は月や地球に比べると、もうずっと古いのです。それで、地中にあった或る物質をもうすっかり採りつくしてしまったんです。しかもその物質は、われわれにとって是非《ぜひ》とも必要なので、同じ太陽から分れ出た地球の、それから又分れ出た月の世界ならばまだきっとあるだろうというので、それを採るためにわざわざやって来ているわけですよ。――地球に行かないで、月に来たわけですか、それは研究の結果、地球には人間という思いのほか進歩した生物がいるし、――いや、これは失礼、本当の話だからおこらないで下さい――、われわれが行っても果して黙ってその物質を採らしてくれるかどうかわからなかったし、一方月の方ならば、これは御覧のように生物一ついないのですから邪魔《じゃま》もはいらぬだろう、と考えて、まあ月の方をえらんだわけです。しかもわれわれは今度がはじめてではなく、もう何度もその物質を採りに来ているんです」
「ふーん、そうか、それでわかった。いや君たちの気持はよくわかるよ、というのは我がアシビキ号も同じような目的で地球を飛出したんだからね」
「ほほお、そうですか」
「そうなんだ、しかも君たちが火星から月へ来るよりか、もっともっと大冒険の途中なんだ。ムーア彗星にある超放射元素のムビウムという貴重物質を採るためなんだからね、これが緑川博士の新動力発生装置に是非とも必要なのだ。そのために我々は大竹中将の指揮下に四万余名の大遠征隊を組織してムーア彗星めがけて飛出したんだ」
「へーえ、あのムーア彗星までムビウムを採りに……」
 さすがの火星人も、この大計画にはびっくりしたらしかった。
「しかし残念ながら、我がアシビキ号は故障のため一行に遅れてしまったのだ」
「そうですか、それはお気の毒です。幸い私たちの中には機械修理にかけては火星でも有数の者をつれて来ておりますから早速お手伝いをさせましょう」
「そうか、そうしてくれると有難いね、うまく修理が出来たら、ついでに火星に寄って、君たちを送りとどけてあげることも出来る」
「そうですか、そうして頂ければ助かります」
 火星人の首領は大喜びをすると、すぐ部下の火星人を呼んで、何か火星語で命令を伝えた。


   火星の食べ物



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