万倍の放射能をもっているといって、世界中をおどろかした。そしてその元素をムビウムと名をつけたのだった。
それを聞いた世界各国の天文学者は、あわてて自分の望遠鏡を、大空に向けた。なるほどムービー氏のいう星はあった。しかしその星の中には、ムビウムなどというすばらしい放射能の物質はいくらさがしてみてもなかった。世界中の天文学者は、ムービー氏のことを悪くいいはじめた。ムービー氏は、自分に対する非難を弁解して、いやたしかにムビウムはあったのである、自分の見たときには、まちがいなくあったのである。しかし今は、自分がその星を見てもムビウムは見あたらない。自分でもふしぎだと思う。だが、はじめに自分が見たときには、たしかにそのすばらしい超放射元素ムビウムがあった。けっして自分はうそつきではない――といった。
これを聞いた或る国の天文学者は、ムービー氏の発見は、あれはあやしいものだ。氏がうそつきでなければ、氏は気が変であろう。われわれは今後、もうあのようなきを変にする元素のことを問題にしないであろうといって、大いにやっつけた。そしてほんとうにその後、誰もムービー氏のいうことを信じなくなり、気の毒にもムービー氏は、家出をしてしまって、今はどこにいるのか分らないのであった。
緑川博士の計画
ところが、わが緑川博士は、ふと思い出して、ムビウムのことを考えたのであった。なるほどムービー氏の発表があってのち、博士も自ら望遠鏡と分光器ととりくんで、ムビウムをさがしたが、ムビウムはうつらなかった。だからムビウムは、やはりうそだったと思った。
だが後になって、博士はこう考えた。
ひょっとすると、やはりムービー氏のいうのが本当ではないかしらん。ムービー氏がはじめ見たときには、たしかにムビウムがあり、次に見たときにはそれがなくなっていたというのはそのほんのわずかの間に、星の中に大異変が起り、ムビウムがこわれて、他の物質になってしまったのではないかと、そう思ったのである。そして、そう気短に、ものをあきらめてしまってはよろしくない。そういう大事なことはもっと念をいれて、しらべをつづけるのが科学者のつとめであると思った。
そのようにして、博士は、ムービー氏の行方不明《ゆくえふめい》になったのちも、天文台にたてこもって研究をつづけているうちに、ついに思いがけない大発見をした。それはなんで
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