く櫛《くし》のようなものがあった。
艇長は、それをみながら、また更に目盛盤を、うごかした。すると、映写幕のうえの像が急にはっきりしてきた。
「ほら、うまく出てきた。これが地球の夜明けだ。いや、夜明けは、この端《はし》のところだけで、きらきら光っているところは、もうすっかり朝になっている」
「えっ、地球が見えているんですか、なんだか銀の櫛みたいだなあ」
「よく見なさい。まっ黒な宇宙を丸く区切って、ここに地球の輪廓《りんかく》が見える」
なるほど、それはたしかに見える。西瓜《すいか》を二倍大にひきのばしたくらいの大きさであった。
「分ったかね。これが、われわれのうしろにとおざかっていく地球だ。地球が、今日は満月のように丸く輝いてみえるのだ。ほら、どんどん輝いている面積が広くなっていく」
どういうわけか、どんどんひろがっていくのであった。それは、地球の重力がとどかない遠方に、この噴行艇が出てしまったために、それで地球が早く廻って見えるのだと、あとで分った。
輝く地球は、全くものすごい。ながく見ていると、身体がさむくなってくるような感じであった。
「見ていると、身体が、ぞくぞくしてきますね」
三郎は、いつわりのない感想をのべた。
「ああ、もうずいぶん遠く離れたという感じだねえ」
艇長は、距離のことを考えている。
「月は、どのくらいに見えますか」
「そうだねえ。月がこの噴行艇のそばへ廻ってくれば、これよりももっと大きく見えるはずだよ。おい艇夫。コーヒーが、ぷうぷうふいているじゃないか」
「あっ、コーヒーのことを忘れていた」
三郎は、大いそぎで、コーヒーのところへとってかえした。
「ああっ、少しで、コーヒーをまたやりそこなうところでした」
三郎は、卓子《テーブル》のうえで、コーヒーを注《つ》いで出した。
艇長は、テレビジョン装置のスイッチを切って、壁を元どおりにし、コーヒーをのむために卓子についた。
「ほう、これはよくわいている。あちち」
艇長は、コーヒー茶碗《ぢゃわん》のふちで、口をやいたので、あわててそれをがちゃんと下においた。そのありさまがとてもおかしかったが、三郎はふきだすのをがまんした。艇長さんのことを、あまり笑うものではないからである。
「こんな宇宙のまん中で、コーヒーがのめるなんて、ありがたいことだ」
艇長は、コーヒーをふきながら、ひまつぶし
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