るならすぐ近くの地球にやってくればいいのに」
「なるほどそれは一寸《ちょっと》おかしいかも知れませんな、しかしこういうわけです。われわれの火星は月や地球に比べると、もうずっと古いのです。それで、地中にあった或る物質をもうすっかり採りつくしてしまったんです。しかもその物質は、われわれにとって是非《ぜひ》とも必要なので、同じ太陽から分れ出た地球の、それから又分れ出た月の世界ならばまだきっとあるだろうというので、それを採るためにわざわざやって来ているわけですよ。――地球に行かないで、月に来たわけですか、それは研究の結果、地球には人間という思いのほか進歩した生物がいるし、――いや、これは失礼、本当の話だからおこらないで下さい――、われわれが行っても果して黙ってその物質を採らしてくれるかどうかわからなかったし、一方月の方ならば、これは御覧のように生物一ついないのですから邪魔《じゃま》もはいらぬだろう、と考えて、まあ月の方をえらんだわけです。しかもわれわれは今度がはじめてではなく、もう何度もその物質を採りに来ているんです」
「ふーん、そうか、それでわかった。いや君たちの気持はよくわかるよ、というのは我がアシビキ号も同じような目的で地球を飛出したんだからね」
「ほほお、そうですか」
「そうなんだ、しかも君たちが火星から月へ来るよりか、もっともっと大冒険の途中なんだ。ムーア彗星にある超放射元素のムビウムという貴重物質を採るためなんだからね、これが緑川博士の新動力発生装置に是非とも必要なのだ。そのために我々は大竹中将の指揮下に四万余名の大遠征隊を組織してムーア彗星めがけて飛出したんだ」
「へーえ、あのムーア彗星までムビウムを採りに……」
さすがの火星人も、この大計画にはびっくりしたらしかった。
「しかし残念ながら、我がアシビキ号は故障のため一行に遅れてしまったのだ」
「そうですか、それはお気の毒です。幸い私たちの中には機械修理にかけては火星でも有数の者をつれて来ておりますから早速お手伝いをさせましょう」
「そうか、そうしてくれると有難いね、うまく修理が出来たら、ついでに火星に寄って、君たちを送りとどけてあげることも出来る」
「そうですか、そうして頂ければ助かります」
火星人の首領は大喜びをすると、すぐ部下の火星人を呼んで、何か火星語で命令を伝えた。
火星の食べ物
「
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