した。折角《せっかく》爆弾をおとしてやろうと思ったことも今は無意味です。敵軍の指揮者たちは、無念の泪《なみだ》をポロポロとおとして、口惜《くや》しがりました。
そこへもってきて、折悪しく暮方になりました。いままで明るかった海面が、ずんずん暗くなってゆきます。西の空には、鼠色の厚い雲が、鉄筋コンクリートの壁のようにたてこめているので、大変早く夕闇が翼を伸ばしはじめました。夕日のなごりが空の一部を染め、波頭を赤々と照らしたと見る間もなく、忽《たちま》ち光は褪《あ》せて、黒々とした闇が海と空とを包んでゆきました。
にわかに訪れる夜!
それこそ気の毒にも、睨み合った相手の位置を、ひっくりかえすのでした。
「救いの駆逐艦《くちくかん》を呼べ!」
「その辺に××××の潜水艦はいないか」
「飛行機が下りて来たぞ、ガソリンがなくなったらしい」
そんなざわめきが、×の汽船の上に起りました。さっきまで笑顔でいた船員たちは、それもこれもいい合わせたように、唇の色をなくしていました。
「船長。どうも変です」
一人の通信手が、あたふたと船橋に上ってきました。
「どうしたのだ」
あから顔の太った船長が
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