視兵が、俄《にわ》かに大声をあげました。
「艦長どの、×船が見えます。本艦の左舷二十度の方向です」
「なに×船!」艦長は直に双眼鏡をとって、海面を見渡しました。「うん、これは×国の汽船だな。これは大きい。まず、三万噸はある」
「軍需品を積んでいるようですな。甲板の上にまで積みあげています」
 副長がそういっているうちに、汽船は急に進路を曲げて、こっちへ驀進して来ます。
「おや、あいつ、こっちへ向ってくるぞ」
「こりゃ怪しいですな。大砲を持っているわけでもないらしいですが」
「とにかく停船命令に一発、空砲を御馳走してやれ」
「はッ――主砲砲撃用意ッ」
 艦内は急に緊張しました。実に危いことでした。もう三十分も早ければ、潜水艦の運命はどうなったかわかりません。
「艦長どの報告」監視兵が突然叫びました。「×船から飛行機が飛出しました。只今高度、約二百メートル」
「うん。とうとう仮面を脱ぎよったぞ、飛行機を積んでいるから、先生気が強いのだ」
「艦長どの。艦上攻撃機です」
「カーチス機だな」
 艦長は別にあわてた様子もなく、汽船と攻撃機とをじっと見つめています。


   大胆不敵の艦長
   
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