はずです。この上は、残りの×船を、甲板上の大砲で、撃って撃って撃ちまくろうという清川大尉の考えです。
水面に出て見ると、何ということでしょう。海上にはもうねらうべき×艦×船の姿はありませんでした。よくもまア沈没したものです。
「各艦集合ッ」
旗艦から、新たな命令がきました。
第八潜水艦は、まるで疲を知らない元気で、旗艦のそばへ急ぎました。既に第十一号が着いていました。稍《やや》遅れて、第九号が急いでやって来ました。逃げる輸送船を追駈けていたのです。
しかし、その残りの第十潜水艦は、一向に集ってくる気色がありません。旗艦からは改めて、無線電信だの、水中信号などを送ってみました。
「どうしても、答がない。第十号は、どうしたのだろう」
悲しむべき想像――それがだんだんと、色も濃く、戦友の胸を染めてゆきました。
「とうとう、やられてしまったのだ」
「ああ勇敢だった第十潜水艦!」
さきに、自分こそ、最期を迎えたと思ったことのある清川大尉は、不思議な運命で、今は僚友の身の上を心配する立場に置かれるようになりました。武運というのは、ここらのことでしょうか。
潜水戦隊の戦友が、一様に悲痛な面持になったそのときです。突如として連合艦隊司令長官から無線電信が入りました。
ああ、わが連合艦隊からの無電!
「吾ガ連合艦隊ハ今ヤ×国艦隊ニ対シテ攻撃《コウゲキ》ヲ加エントシ、南洋○○群島ノ根拠地ヲ進発、真東ニ向ッテ航行中ナリ。×艦隊ハ既ニハワイパール[#「ハワイパール」に傍線]軍港ヲ出デテ、大挙西太平洋ニ向イタリ。太平洋大海戦ハ遂ニ開カレントシ、皇国ノ興廃ト東洋ノ平和ハ、正ニコノ一戦ニ懸レリ。貴第十三潜水戦隊ハ×国艦隊ノ航路ヲ追イ、機会ヲ求メテ×ノ主力戦隊ニ強襲スベシ。終」
ああ、第十三潜水戦隊の新たな任務――これこそ待ちに待ったる最大の機会です。祖国をねらう憎むべき×の強力艦隊と一戦を交えることは帝国軍人の最も本懐とするところです。さア行こう光栄ある戦場へ! 皇国の存亡の懸けられたる太平洋へ!
底本:「海野十三全集 第3巻 深夜の市長」三一書房
1988(昭和63)年6月30日第1版第1刷発行
初出:「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社
1933(昭和8)年5月
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年11月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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