痛快な捨身の戦法
一難去って又一難。こんどの相手は、潜水艦の最も苦手とする飛行機です。これに会ったら最後、いくら潜っても逃げようとしてもだめです。三十メートルや四十メートルの深さでは、海水を透して、アリアリと見えるからです。また水面を全速力で逃げ出しても、潜水艦と飛行機の競走では、まったく亀と兎で、瞬《またた》く間に追いつかれてしまいます。折角危い命を拾ったと思った第八潜水艦でしたが、どんなにもがいてみても、今度という今度は最期が迫ったようです。
大汽船はと見ると、マストの上に鮮かな××旗をかかげ、憎々しく落着いて、こっちを向いて快走してきます。自分の飛行機がどんなに痛快に日本の潜水艦をやっつけるか、高見の見物をしようというつもりに違いありません。
「生意気な汽船だ」
先任将校が耐《こら》えかねたように、口の中で怒鳴りました。
しかし誰もが、もう覚悟をきめました。この上は、艦長からの果断なる命令を待つばかりです。
航程六千キロ。本国を後にして、勇敢にも×国の海に進入した第八潜水艦も、遂にここで空しく海底に葬られねばならないのでしょうか。
艦長清川大尉は、ビクとも驚きません。ここで騒いだり、悲観しては帝国軍人の名折れです。
(日本男子は、息の根のあるうちは、努力に努力を重ねて、頑張るのだッ)
大尉は日頃から思っていることを、口の中でいってみました。
見れば、×の攻撃機は、わが艦の砲撃をさけるかのように、やや向うに遠く離れて、もっぱら高度をあげることに努めているのでした。やがてこっちの手の届かない上空から爆撃を始めようという作戦なのでしょう。
「よおし、やるぞ」
大尉は何か決心を固めたものらしく、その両眼は生々と輝いてきました。
「潜航! 深度三十メートル、全速力!」
艦長は元気な声で号令をかけました。
艦はみるみる海上から姿を消して、なおもドンドン沈んでゆきます。潜望鏡も、すっかり水中に没して、今は水中聴音機が只一つのたよりです。こうなると、いつ飛行機から爆撃されるか、全く見当がつかなくなります。
乗組員は、艦長の心の中を、早く知りたいものだと焦りました。
「深度三十メートル」
潜舵手が明瞭な声で報告しました。
「よし、そこで当直将校、水中聴音機で探りながら、×の汽船の真下に、潜り込むのだ。丁度真下に潜っていないと、危険だぞ」
艦長の口
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