れにのぞんで彼にいった言葉が思いだされた。
(そうだった。軽々しいことはできない)
太刀川は、一歩手前で、気がついた。彼の双肩には、祖国日本の運命がかかっているのだ。リキーと闘って勝てばいいが、もし負けて、中国少年同様、南シナ海になげこまれてしまえば、祖国への御奉公も、それまでではないか。
(といって、あの中国少年は見殺しには出来ない)
太刀川は、わが胸に問い、わが胸に答えながら、考えこんでいたが、何事を思いついたのか、
「そうだ」といって席をたった。
おそろしい制裁
ダン艇長は、隣室の騒ぎを、まだ知らなかった。太刀川が扉をひらいたので、はじめて気がついたようであったが、太刀川は立ちあがろうとするダン艇長を、すぐさま手まねで押しとどめて、そして扉をぴたりと閉じた。
どんな話が、艇長室のなかでとりかわされたかわからない。
だが、それから、一、二分のち、ダン艇長は間の扉をひらいて、さりげない風で、たけり立つリキーの前にやって来た。
「おさわがせして、あいすみませんでした。どうぞリキーさん、その少年をこっちへお渡しください」
艇長は、おそれ気もなく、リキーによびかけ
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