んなはたらきをするのであろうか。
海面にとつぜんとびだしては怪力線をはなつあの海魔のことから考えると、この中には、さらにおそろしい攻撃兵器がしまってあるのにちがいない。
(たった一目でもいいから、あの巌壁によじのぼり、ながめおろしたいものだ)
太刀川がそんなことをつぶやきながら歩きだした時、いじわるく、彼を呼ぶ者があった。
「リーロフ大佐。ちょっとお待ちください」
ふりかえってみると、沈没商船の中から出た一名の潜水隊員が、ゆらゆらとこっちへ泳ぐようなかっこう[#「かっこう」に傍点]でやってくる。
「なんだ、あわてたかっこう[#「かっこう」に傍点]をして?」
「積荷をとりだせという御命令でしたが、船の中に、もぐりこんでみると、中は爆発で、めちゃくちゃにこわれております。積荷は、ほとんどだめです。ちょっと御検閲をねがいます」
「ちょっ、じゃ、ウイスキーの箱は、あてはずれか」
太刀川は、たくみに話のつじつまをあわせながら、隊員について沈没商船の方にむかった。
中にはいってみると、なるほど船内は二目と見られない。まるでバケツを四方八方から銃でうったようなみじめな姿である。これでみると、この商船も船底にかなりの火薬をつんでいて、それが海底に達したとき爆発したものらしい。ビームはあめのようにまがり、太いパイプがささらのようにさけている。
隊員はと見れば、なにか缶詰や酒壜のようなものをおもいおもいにぶらさげて、鉄板のやぶれ穴からやぶれ穴へ、かにのように、はいまわっている。リーロフ大佐きたると知って、きゆうに化石のように、かたくなった者もあった。
太刀川は、こんなことでひきかえしては、リーロフらしくないと思い、次のひどい命令を出そうかと考えていたとき、どうしたのか、やぶれ船の奥の方から、たまげるような悲鳴がきこえ、つづいて船艙のやぶれ穴から、あわてきったかっこう[#「かっこう」に傍点]で、隊員たちが、ふわふわと逃げもどってきた。手にしていた缶詰も酒壜も、そこへほうりだして……
「こーら、誰がひきかえせといった」
と、太刀川はどなった。
「た、た、たいへんです。海の吸血鬼がきているんです」
「この奥のところです。そ、そいつは太いパイプの中で、歯をむきだして、こっちをにらみつけました」
「い、いのちがちぢまった。吸血鬼を見たのは、うまれてはじめてだ。おおこわい」
「ばかども!」
太刀川は、リーロフにまねて、大声でしかりとばした。
隊員は、びりびりとふるえたが、
「ですけれど、相手は吸血鬼です」
といった。
「名誉ある海底要塞の潜水隊員が、吸血鬼ぐらいで、こわがっていてどうするんだ。よし、おれがいって、正体を見とどけてやる」
太刀川は、きっぱりといった。
ふしぎな顔
海底の吸血鬼?
じょうだんではない。
太刀川青年は、どんどん奥にふみこんだ。
隊員たちは、それを見おくると、急におそろしくなったとみえ、あわてて外へにげだした……
太刀川は、べつに吸血鬼の正体をしらべたり、とらえたりするつもりはなかった。潜水隊員から、はなれるのは今だと思ったので、
「おい、吸血鬼、でてこい」
とむしろ、おかしさをこらえながら、沈没商船の奥へふみこんでいった。
奥は、なるほどひどくやられていた。さいわい、途中で、隊員のおとした水中灯をひろったので、それをかかげてみると、鉄板でつくった船腹が、十メートル四方も、ふきとばされ、そのあとが、まるでつきだした屋根のようになっていた。
「あ、あぶない」
太刀川は、足もとの砂がぐらぐらと、動きだしたので、びっくりして腰をおとした。水中灯をさしつけてみると、例の屋根の下が、すり鉢状の形に大きく深くえぐりとられている。ずいぶん大きな爆発跡であった。ぼんやりしていれば、動きだした砂に足をとられて、ずるずるとすり鉢状の爆発跡にすべりおちるところだった。
よく見ると、その中に、なんだか煙突のようなものが頭をだしている。煙突といっても、上がふさがっているから、穴なしの煙突といった形だ。
「あれは一たい、何であろう」
と、太刀川は不審におもった。ひょっとすると、さっき隊員たちが吸血鬼がいるといったのは、このことかもしれない。とにかく見さだめておこうと、砂の上をずるずると底の方へすべりおり、そのそばによって、水中灯をさしむけてみた時、彼はじつに意外なものを発見した。煙突様のものには、その一部分に頑丈な耐圧|硝子《ガラス》らしいものをはめこんだ、曲面の窓があったが、その窓の中に、おもいがけなく三つの首がならんで、こっちを見ていたのである。
「おお!」
と、さすがの太刀川もさけばずにはいられなかった。なんということだ。海底にひょっくり頭を出した煙突様の小さい塔があるのさえふしぎなのに、その中
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