太刀川は生きていた
さて話は元にもどって、海魔灘の渦巻にまきこまれて、海上から姿をけしさった太刀川時夫は、どうしたことであろうか。また、潮に流されながら時夫にたすけをもとめていた石福海少年は、どうなったことであろうか。
がんがんがんがん。がんがんがんがん。
鉄をたたいているような物音である。
「あ、やかましい。耳がいたいじゃないか」
太刀川時夫は、夢心地でつぶやいた。
ぽとり、と、つめたいものが、時夫の襟もとにおちて、せなかの方にまわった。
「ああ――」
そこで、太刀川時夫は、やっと気がついた。
「はて、ここはいったいどこだろう」
あたりをずっと見まわした。
そこは、コンクリートでかためた四角な空井戸の中のようなところだった。壁はびしょびしょに水でぬれている。ふしぎなのは、時夫のいる床だった。あらい鉄格子でできている。がんがんがんというものすごい音は、鉄格子の下からきこえてくるのだった。
電灯らしいものもないのに、この室内は鉄格子の下からぽーっと青白い光がさしていて、物の形がわかる。よく見ると、壁にその青白い光の横縞がいくつもあり、天じょうの方までつづいていた。後になってわかったのだが、この光は深い海にすむ夜光虫をよせあつめた冷光灯であった。
太刀川時夫は、この気味わるい光のなかに立って、手足に力を入れてみた。たしかに力がはいる。しかしそれでいて、自分は生きているのか死んでいるのか、どうもはっきりしないのであった。そこでしきりに記憶をよびおこした。
(――おそろしい大渦巻にすいこまれて――そうだ、石福海が、その前にたすけをもとめていたが――自分はあのまままっくらな海中にひきずりこまれて、息がつまりそうになったが、――それから、なんだか竜宮のように、美しい室を見たようにおもったが――そのうち体がくるくるとまわりだして、なにもかも見えなくなってしまった。それから……)
それから、さあそれから――それから後はわからないのだ。
「僕は、生きてはいるのだ!」
時夫は、両の腕を、こつこつとたたきあわせて見ると痛い。たしかに生きている。
「生きてはいるが、ここはどこだろうか」
まるで牢獄みたいな奇怪な室だった。
潜水艦の中かしらん?
こんな大きな室をもった潜水艦はない。では、どこか島の地下室であろうか、それとも窟《いわや》の底であろうか
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