だし、それが、だんだんひろがっていくような気がした。
「あ、先生。わたしの体、ながされる。おお、大きな渦、先生、あぶない」
「なに、渦だ。うーむ。いよいよやってきたか」
 太刀川が、そうつぶやいた時、石少年の体が、まるで船にでものっているように、すーっと、目の前を流れた。
「せ、先生。渦がわたしをひっぱるよ。た、助けて!」
 石少年の細い腕が、高くあがったのを見た。
 しかしそれと同時に、太刀川の体も渦にのって流されはじめた。
「おお、石、しっかりしろ!」
 もう石少年の返事はない。そのうちに、ぴちぴちという生木をさくような、ぶきみな音が、渦のまん中と思われるあたりから聞えだし、彼の体は、くるくるとまわりだした。
「む、無念だ」
 と思った時、急に足が下にひっぱられるような気がした。必死にもがいたが、むだであった。太刀川の体は、いよいよはげしく、まるでこま[#「こま」に傍点]のように早くまわりだした。
「もう、だめか」
 彼は観念の眼をとじた、瞬間、頭の中をかすめるものがあった。
 原大佐の顔、
 重大使命は?
 海魔は?
 ケレンコ、リーロフは?
 やがて彼の気は、だんだん遠くなっていった。
       ×   ×   ×
 太刀川時夫と石福海を、のみこんだ大きな黒い渦は、ゆらりゆらりと所をかえて行く、その底のあたりに、何か、ぴかりぴかりと光るものがあったが、ごーっという海鳴が一だんと高くなり、あたり一面が、ものすごく波立って来たかと思うと、やがて、まっくろい海面を、つきやぶって、ざざー、ざざーと、泡立てながら、ぬーっと姿をあらわした恐しくでかいものがある。
 大海魔であった。
 夜目にもそれとわかる、あのものすごい大海魔の頭であった。


   ミンミン島の珍客


 太刀川時夫と石福海少年とを一のみにしたものすごい大渦巻は、いつしか海面から消えてなくなった。洋上にただよいつつ、しきりに救いをもとめていたクリパー号の他の艇員や乗客たちの声も、いまはもうどこにもきこえなくなった。
 この人々の運命は、どうなることであろうか?
 太平洋上に、とつぜんかま首をもたげた、世にも奇怪な海魔の謎は、いつ誰がとくであろうか?
 それはしばらくおいて、この物語をミンミン島とよぶ、太平洋上の一つの小さな島の上にうつすことにする。
 ミンミン島は、色のくろい原地人たちが、みんな高
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