らは原大佐だ」
「ああ原大佐!」
太刀川は、おどろいた。こうもうまく、連絡ができるものとは、考えていなかった。大佐の声はすこしはずんでいるが、その声の大きさは、市内電話と同じくらいだった。
「待っていたぞ、太刀川君。僕は今、君もよく知っている、役所の例の机の前にすわっているよ。さあ聞こう。話したまえ」
「ああ」
と太刀川は我にかえった。大佐の声を聞いていると、大佐も、この飛行艇内のどこかにいて、そこから電話をかけているような気がするのだ。大佐にさいそくされて彼は、はじめて話しだした。
「私は今フィリピンの、はるかはるか北の沖に不時着しようとしているサウス・クリパー艇の中にいます。つい今しがた例の大海魔が海面からあらわれ、そしてすぐひっこんでしまうところを見ました」
「そうか、やはり本当にそのような怪物がいたのか。よし、じゃ、くわしく話したまえ」
「まず、形は――」
と、語りかけたとき、艇内の高声器から、とつぜん、警報がなりひびいた。
「皆さん、すぐさま座席の下にある救命具をつけてください。本艇は、あと二、三分のうちに、不時着します。その時は、すぐさま窓から海へとびこんで下さい。本艇は、さきほど暴風雨中を無理な飛行をしましたため、胴体の下部数箇所にさけ目ができました。修理が間にあわず、波があらいので、沈没はまぬかれません。救命具は、しっかり体についているかどうか、たしかめて下さい。すべて行動は、おちついてやること。窓から出るときは、婦人を先にして、男子は後にして下さい。お互に人間としての本分をつくし、どんなことがあっても最後まで気をおとさず、助けあって下さい。無電監視所から、いまに助けに来てくれることと思います。艇員の命令を守らないものは、やむを得ません。銃殺します。ただ、皆さんを、かような運命におとしいれたことにたいしては、艇長以下一同、何とも申しわけなく思っております」
悲壮な声であった。おお、いよいよ着水かと思った時、
「そうだったか、太刀川君、今のを聞いたぞ」
原大佐は、口をこわばらせて、そういい、「うーむ」とうなる声がきこえた。
艇の最後
だが、太刀川時夫は、おちついて、はきはきとした声でいった。
「もう時間がありませんから、この飛行艇が沈むまでに、できるだけのことを、報告しておきます。お書きとり下さい」
「よし、こっちの準備はでき
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