ですか。この私が……」
 太刀川はおどろいて聞きかえした。
「いや、まだそれは化物ときまったわけではない。化物かどうかを、君にいって調べてもらいたいのだ。わが海軍としては、太平洋の護《まもり》は大切このうえもない。そこへ化物が出てくるというのでは、困るのだ。とにかく、化物であるかないかを、われわれは一刻もはやく知りたいのだ。部内から軍人などをえらんで向こうへやると、列強のスパイにすぐ気《け》どられてしまう。だが[#「だが」はママ]君のように、こっちと従来関係のなかった人をえらんで、現場へおくりたいのだ。それには君が一番適任だとおもう。御苦労だが一つひきうけて、海魔の正体を調べてきてくれ」
 太刀川は大佐の言葉をじっと聞いていたが、やはり駄目だという風にかぶりをふり、
「私はお断りいたします。化物探検などというそんな架空な、そして不真面目《ふまじめ》なことをやるのはいやです」
 青年は、きっぱりと大佐の頼みを断った。
 原大佐は、それを聞いて、怒るか、それとも失望するかと思いのほか、いよいよ満足らしい笑をうかべて、
「ほう、なかなか強硬だな。君のその真面目な性格を見こんでいればこそ、あえて私はそれを頼むのだ」
「まことに失礼とは思いますが、この事ばかりはどうかお許しください」
「それはどうかと思う。おい太刀川。君はたいへん思いちがいをしているぞ。架空だとか不真面目とかいうが、そんなものではない。私はこれが実際そうあり得ることではないかと思うから、君に調べ方を頼むのだ。第一考えてもわかるだろう。わが海軍が、そんな不真面目なことを命令するだろうか。断じて否である。今日の国際情勢を見なさい。世界列強は、いずれも競争で武装をしているではないか。科学のあのおそろしい進歩をごらん。これからの戦争には、なにが飛びだしてくるかわからないのだ。野心に眼《まなこ》を狼のように光らせている国々がある。それに対し、われわれは、極力警戒をしなければならないのだ。この手紙は、漁夫の書いたものではあるが、ともかく太平洋の怪事をしらせているのだ。この空缶は、わが琉球のある海岸に流れついたものである。太平洋は、わが大日本帝国の東を囲む重大な区域だぞ。太平洋の怪事を、そのまま放っておけると思うか。漁夫の目には、それが化物に見えたかしらぬが、科学者である君が見れば、それは科学の粋をつくした最新兵器であるこ
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