ゃならん。早く電灯をつけろといえ」
 ケレンコは、油断していなかった。
「はあ」艇長は電話をかけながら、ちょいと頭を下げて、
「おい、停電したが、どういうわけだ。なに暴風雨で発電機の中に水がはいった。……蓄電池だけで、電話とエンジンの点火とだけを辛うじて保たせてあるって。ええ、なんだ?――ふん、そうか、よしよし。わかったわかった」
「こら、なにをいう。他のことを話しちゃならぬといっているのがわからないか」
「いや、故障のところを説明させているんです」
 艇長はいいわけをして、
「おい、それからどうするというのか。………うん、わかった。早くなんとかなおせ。そうか、こっちは大丈夫だ。じゃ、あと十分後を期して、一せいに、よし、わかった」
「なんだ、おい。十分後というのは」
「え」とダン艇長は、なぜかどぎまぎしたが、
「いやなに、十分後までになおすから安心してくれといっているのです」艇長は、電話を切ったあとまで、なんだかそわそわしていた。そして、かたわらに立っている太刀川青年の方をちらちらとぬすみ見ていた。
 なんだか様子がへんである。ダン艇長は、はたして電話で停電した話ばかりをしていたのであろうか。
「さあ、艇長。用がすんだら、懐中電灯をかえしなさい。僕がわたしてあげます」
 なにをおもったか太刀川時夫は、艇長をうながして、懐中電灯をうけとると、これをケレンコの顔にさしむけた。
 ケレンコは、不意にまぶしい電灯をさしつけられて鬼瓦のような顔をしておこった。
「こら、何をする。無礼者めが」
 なにか意味ありげに、にやにや笑っている太刀川青年の手から、ケレンコはあかりのついた懐中電灯をひったくった。
 このとき、くらがりの室内を、何者ともしれず、こそこそと床上をはい、そして扉をぱたんといわせて、外へ走りでた。
 それに気がついたダン艇長は、あっと叫ぼうとして、あわてて自分の口をおさえた。
 停電事件と同時に、艇内に、なにかしらふしぎなことが起っているらしかった。
 ところがそのとき、操縦長が、誰にもそれとわかる悲壮なこえで、艇長によびかけた。
「ああ艇長。本艇はもうだめです。ぐんぐん暴風雨におしながされだしました。方向舵が直らないのです。どうしてもだめです」
 それは本当だった。羅針儀の針はぶるぶるふるえていた。
「それはそのはずだ」
 太刀川青年がケレンコに聞えよがしにいっ
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