「なに! じゃ貴様は、例の二人組の共産党員の片われ?」
「ほほう、いまになって、やっと気がついたのか。名のりばえもしないが、君がしきりに探していた共産党太平洋委員長のケレンコというのは、おれのことだ。忘れないように、よく顔をおぼえておくがいい」
 彼は、頭からすぽりと、かぶっていた頭巾《ずきん》をかなぐりすてた。
「あ、ケレンコ! うーん、貴様がそうだったのか!」
 ダン艇長は、ぶるぶると身ぶるいしながらも、ケレンコ委員長のむきだしの面構《つらがまえ》を見た。
 大きな高い鼻、太い口髭、とびだした眉、その下にぎろりと光る狼のような目!
 勝ちほこるケレンコ委員長のにくにくしいうす笑!


   仮面をぬいだ悪魔


「おい、立て!」
 ケレンコはどなった。
「聞えないのか。立てというのに」
 ケレンコは、ピストルを握りなおして艇長につきつけた。
 艇長は、いわれるままに、するほかはなかった。
「こんどは、両手をあげるんだ」
 ケレンコがつづけざまにいうので、
「貴様は、この艇長の自由をしばって、どうしようというのか」
「どうしようと、おれの勝手だ。文句をいわずに手をあげろ、四の五のいうと命がないぞ」
「なに、命がない? 馬鹿をいうな。艇長を殺すことは、貴様も一しょに死ぬことだぞ。艇長がいなくなって、このサウス・クリパー号が安全に飛行できると思うか。それに――」
「それにどうした」
「わが艇員は、貴様のような無法者をそのままにしておかないだろう。無電監視所が変事《へんじ》をききつけて、いまに救援隊がかけつけて来る」
「うふふふ。何をほざく。貴様のうしろを見ろ、無電装置が、ピストルの弾で、こわされているのに気がつかないのか。そんなことに、手ぬかりのあるケレンコ様か」
「え――」
 艇長がふりかえってみた。はたして無電装置の真空管が、むざんにも撃ちぬかれて、こわれていた。
(ああ、艇員たちは、一たい何をしているのだ。艇内が、エンジンの音でやかましいといっても、あのピストルの音が聞えないはずがない)
 そのとき、とつぜん扉の向こうにはげしい銃声がきこえた。
「あ、あれは――」
 艇長がおもわずさけんだ。
「ほう、やっているぞ。艇長さん。あれが耳にはいったかね」
 ケレンコ委員長は、にやりと笑って、艇長の方を見た。
「なんです。あの銃声?」
「うふ、そんなに知りたいのかね
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